相撲雑学

相撲はなぜ座布団を投げるの?危険はないの?歴史と現状の課題を解説

現役時代、もし座布団に座ろうものなら「顔じゃない!」(相撲界の隠語で「分不相応」という意味)と咎められ、約7年間、日常生活で座布団に座ることはありませんでした。
元力士のしんざぶろうです。こんにちは!

相撲ファンであれば誰しも、取り組みの決着がついた瞬間に座布団が空を舞う光景を目にしたことはありますよね? 特に横綱の取り組みで、「座布団投げ」が行われることが多く、観客の興奮が絶頂に達した瞬間に投げられますね。しかし、なぜ座布団を投げるのか、その理由や背景については詳しく知らない人も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、相撲観戦における「座布団投げ」がなぜ行われるのか、投げてもいいのか、いつからこの行為が始まったのかなど、その意味や歴史、文化について詳しく詳しく解説していきます。

相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
テレビ中継でも座布団が舞うと熱気が伝わってくるわよね!
現地で体験してみたいなぁ♪

座布団を投げる理由とは?

座布団が投げられるのは、主に観客の興奮が最高潮に達した時に行われます。 特に横綱が負けるなど、予想外の展開や番狂わせが起きた際、勝利した力士への称賛・感動や驚きを表現しています。観客同士の一体感を感じ、会場が熱気に包まれる瞬間でもあります。

そして、この行為は、相撲文化特有のものであり、他のスポーツにはあまり見られない習慣です。

  • 強すぎる横綱への野次
  • 勝った力士への祝福
  • 取り組みそのものに波乱が生じ、その興奮を表現している

どんなときに座布団を投げるの?

以前は、平幕力士が横綱に勝った時だけ座布団が投げられていました。しかし、次第に対象が広がり、三役(小結、関脇、大関)の力士が横綱を破った時や、優勝が決定した名勝負などでも座布団が投げられるようになりました。

以下に、座布団が投げられる特別な状況を箇条書きにしましたので、ご覧ください。

  • 横綱が負けた時
    ⇒横綱が土俵で負けたことは非常に少なく、観客にとっても大きな驚きです。その驚きと格下力士への称賛の意味を込めて、座布団が投げられることがあります。
  • 大番狂わせの勝負
    ⇒実力差があると思われた力士が勝利することもあり、観客が驚きと感動、称賛の意味を込めて座布団を投げることがあります。
  • 優勝に影響を与える取り組み結果
    ⇒優勝争いに大きな影響を与える結果となった場合、座布団が投げられることがあります。例えば、優勝争いトップを走る全勝力士が負けた時など。
  • 千秋楽での横綱対決
    ⇒相撲の頂点である横綱同士の対決に対し、勝ち負け関係なく称賛の意として座布団が投げられます。
相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
でも、相撲の歴史って古いわよね。
いつから座布団を投げてるのかなぁ?

座布団投げの歴史と由来

相撲観戦で見かける「座布団投げ」は、江戸時代の芝居小屋で見られた「投げ纏頭(なげはな)」という文化にそのルーツを持っています。

「纏頭」(はな・てんとう)とは、歌舞伎役者や落語家など、舞台上で活躍する演者に観客が贈る褒美や祝儀のことです。この「纏頭」を、自分の名前や家紋が入った羽織や帽子といった、身分が特定できる品物を舞台に投げ込む風習が「投げ纏頭」です。

つまり、褒美や祝儀を投げることから「投げ纏頭」という名がつきました。

18世紀頃には、この「投げ纏頭」の文化が相撲の世界にも広まり、力士への応援の気持ちを込めて、観客が自分の持ち物を土俵に投げ込むようになりました。投げ込まれた品物は呼出によって回収され、返却は力士が持ち主に直接会って行います。その際に、ご祝儀を渡して力士との縁を作っていたようです。

しかし、この「投げ纏頭」は、明治42年に正式に禁止され、この名残が後の座布団を投げる文化へと発展したと言われています。そして「纏頭」は、時代とともに形を変え、現在の「懸賞金」へと発展しました。

現代では「投げ纏頭」の役割が2つに分かれた
  • 贔屓(ひいき)の力士にご祝儀を渡して応援したい
    ⇒懸賞金
  • 奮闘した力士を称賛したい
    ⇒座布団投げ

ちなみに、懸賞金は1本「7万円」ですが、力士が実際に手にするのは「3万円」とされています。もう少し詳しく知りたい方は、力士の収入についてまとめた記事がありますので、ぜひこちらもご覧ください。

お金と財布の画像
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座布団を投げる際のルールとマナー

座布団投げは、かつては観客の興奮を表す象徴的な行為でしたが、現在は安全上の理由から公式に禁止されています。 投げられた座布団が他の観客や力士、行司などを怪我させる恐れがあるためです。

相撲協会は、座布団を投げる行為を控えるよう繰り返し注意喚起を行っており、会場内でも「座布団や物を投げないでください」とアナウンスされています。しかし、興奮した観客が思わず座布団を投げてしまうケースは後を絶ちません。

実際に、座布団が他人に当たって怪我をするといった事例も報告されています。このような被害を防ぐため、観戦マナーとして座布団を投げないことが推奨されます

座布団による被害事例
  • 2012年5月場所
    ⇒場内アナウンスをしていた行司の後頭部に座布団が直撃し、前歯がマイクに当たり口の中を切る怪我をする。
  • 2017年7月場所
    観戦中に、元フィギュアスケート選手「浅田真央さん」の頭を座布団が直撃する。
相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
たしかに、どこから飛んでくるのか分からない座布団が当たるのは危険ね。
そうなると座布団は投げない方が良いのね?

結局、座布団は投げてはいけないの?

座布団投げに関して、結論はまだ出ていないのが現状です。 なぜなら、ファンの中には、「座布団の舞」を伝統的な形美として尊重する声や、力士に対する敬意、相撲そのものに対する熱狂の表れと捉えられてきたからです。

その一方で対策もとられており、投げられた座布団が他の観客や力士に怪我をさせる危険性があることから、安全面を考慮し、座布団投げは禁止されるようになりました。

実際、2008年から九州場所では「飛ばせない座布団」が導入されています。これは飛ばないよう工夫された2人用の大きな座布団で、1人でも座っていると投げることができません。これにより、九州場所においては座布団投げが事実上不可能となりました。

しかし、2010年の九州場所では、「横綱:白鵬」の63連勝が「前頭筆頭:稀勢の里」によって止められるという大波乱が起きたにもかかわらず、座布団が一枚も投げられなかった事はファンの中で賛否が巻き起こっています。

その後も、座布団投げに関する議論は続いており、九州場所以外の場所では、従来通りの座布団が使用され「座布団の舞」が起きています。

ファンの中には、投げられない座布団ではなく、投げても怪我をしない軽量化や素材工夫を施した座布団を採用すべきだとの要望も多くあり、安全性を確保しつつ、座布団投げを可能にするような新たな試みも提案されているようです。

「座布団の舞」に関する議論
  • 伝統と安全性
    ⇒座布団投げは、かつては力士への敬意や興奮の表現でしたが、現在は観客や力士への怪我の恐れから安全面が問題視されています。
  • 禁止と対策
    ⇒安全確保のため、座布団投げは禁止され、九州場所においては「飛ばせない座布団」が導入されました。
  • 賛否両論
    ⇒「座布団の舞」は形式美であるとして、伝統を重んじるファンからは禁止に反対の声も上がっていますが、安全面を優先すべきとの意見も根強くあります。
  • 現状
    ⇒九州場所においては座布団投げが事実上不可能となりましたが、他の場所では依然として行われています。
  • 今後の課題
    ⇒相撲の盛り上がりと観客の安全性を両立させるための新たな対策が求められており、投げても怪我をしない軽量化や素材工夫を施した座布団が提案されています。

飛ばせない座布団の大きさ(九州場所のみ)
〇サイズ:縦1m25×横50cm 〇重さ:2.4キロ
この2人用の座布団を2枚1組に紐で連結し、投げられないように工夫されています。

通常の座布団
⇒正確なサイズはわかりませんでしたが、相撲観戦で使われる座布団は、一般的な座布団よりもかなり大きく、重さが約1.5kg~2kgほどあるため、遠くまで投げ飛ばすのは容易ではありません。

管理人の後輩
元力士 まさる
管理人の後輩
元力士 まさる
僕も一度観戦したことがあるけど、この座布団ってフカフカしてて、座り心地が良いんだよね。

まとめ

いかがでしたか?

相撲観戦における座布団投げは、力士への称賛や、観客の興奮と感動を形にする伝統的な文化として深く根付いています。特に、横綱が敗れるなど、ドラマチックな瞬間には、会場全体が一体となり、熱狂的な高揚感が生まれます。この熱狂こそが、相撲観戦の醍醐味と言えるでしょう。

しかし一方で、座布団投げには、観客や力士が怪我をするリスクが伴うという問題も存在します。万が一、重大な事故が発生すれば、楽しいはずの観戦が悲劇に変わってしまうだけでなく、相撲そのもののイメージを損なう可能性も否定できません。

このように、座布団投げは相撲観戦の熱狂を象徴する一方で、安全面という大きな課題を抱えています。座布団投げをめぐる議論は、相撲の未来を左右する重要な問題です。伝統と安全性のバランスをどのように取るのか、今後も注目していきたいところですね。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
また、次回の記事でお会いしましょう。