僕が初めてちゃんこ鍋を食べたのは、新弟子検査に合格する前のこと。まだ「お客さん扱い」で、食事の場でも先輩力士が何人も立って給仕してくれて、緊張でいっぱいでした。
あまりに張りつめた空気の中だったので、正直なところ味はよく覚えていません…それでも「これが力士の世界か」と鮮烈に記憶に残っています。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
ちゃんこ鍋といえば相撲部屋の代名詞ですが、実はひとつの決まった料理ではありません。醤油、味噌、塩、さらには水炊きや湯豆腐風まで、味付けも具材も部屋ごとに違いがあり、実にバリエーション豊富なんです。ところが一般の方には「ちゃんこ=一種類の鍋料理」と思われていることも多いんですよね。
そこで今回は、ちゃんこ鍋の基本知識から人気具材ランキング20選、そして味付けやタレの種類まで、元力士ならではの体験談を交えながらご紹介します。
ぜひ最後までお付き合いくださいね。
僕もちゃんこ鍋は大好物だったんだよね!とくに「鶏のつくね」が大好きで、昼寝のあとに残っていたつくねをこっそり盗み食いしたこともあったよ。あの味は今でも忘れられないなぁ。
土俵においては技と力を競うが、ちゃんこ鍋の席は心を交わす場なり。具材の妙は勝負と同じく、ひとつ欠けても調和は崩れるぞ。
そなたが示す二十の具材、その番付のごときランキングも楽しみである。記事の果てにて、拙者の感想を述べようぞ。ゆめ途中で退かず、最後まで読み進められよ。
- ちゃんこ鍋の起源や意味、部屋ごとの特色
- 基本となる味付けや食べ方の種類
- 人気具材のランキング20選とそれぞれの特徴
- 相撲部屋で定番のちゃんこ鍋3選
- よくある質問(変わり種具材、定番具材、余った具材の活用法)
ちゃんこ鍋とは?
ちゃんこ鍋は、明治時代に相撲部屋で誕生したといわれています。多くの弟子に一度に栄養を与えるために考えられた、極めて合理的な料理です。肉・魚・野菜を大鍋で煮込み、みんなで取り分けて食べるスタイルは、力士の体を大きく育てるために欠かせないものでした。
「ちゃんこ」という言葉にはいくつかの説があります。もっとも有力とされているのは、「親方(父親)を意味する『ちゃん』と、弟子(子)を意味する『こ』を組み合わせた」というもの。
つまり「親方と弟子が一緒に食べる食事」を象徴した表現だとされます。そのほか中国語起源説なども存在しますが、現在ではこの「親方と弟子の食事説」がもっとも一般的と考えられています。
現在では「ちゃんこ鍋」という言葉が広く使われていますが、相撲界では鍋に限らず力士がつくる料理全般を「ちゃんこ」と呼びます。焼き魚も、炒め物も、カレーライスでさえ「ちゃんこ」の一部。力士にとって「ちゃんこ」とは、日々の食生活そのものを指す言葉なのです。
ちなみに、僕が現役時代から今でも一番好きなのは「湯豆腐鍋」。
その理由は、なんといっても濃厚な黄身ダレです。卵黄に醤油やみりん、かつお節や青のりを加えたタレに熱々の豆腐を絡めると、シンプルながら深い味わいで箸が止まりません。
以下の動画では、出羽の海部屋が実際にこの「湯豆腐鍋」をつくっている様子が紹介されています。一般にはあまり知られていないレシピだと思いますので、興味があればぜひ参考にしてみてください。
動画を見てすごくおいしそうだったから、見よう見まねで湯豆腐鍋を作ってみたの。でも、黄身ダレの加減が難しくて「これで合ってるのかな?」って不安に…。やっぱり本場の味を知らないと正解がわからないわね。
しんざぶろうさん、今度ぜひ本物を再現して作ってみて!味見役は任せてね♪
ちゃんこ鍋の特徴
ちゃんこ鍋には「この具材でなければならない」という決まりはありません。
肉・魚介・野菜・豆腐などを自由に組み合わせ、栄養バランスを考えながら旬の食材を取り入れるのが各部屋の工夫です。具材の自由度が非常に高く、同じちゃんこでも部屋ごとに個性が表れるのが特徴といえます。
味付けの種類
味付けのバリエーションも豊富です。近年ではトマトをベースにした鍋や洋風のアレンジなど、和食以外の要素を取り入れる部屋も出てきました。ただし、基本となるのは以下の3種類です。
- 醤油ベース:誰にでも食べやすい、さっぱりとした王道の味。
- 味噌ベース:濃厚でコクがあり、魚介や肉など幅広い具材と相性が良い。
- 塩ベース:鶏肉やつくねと相性抜群。あっさりしていながら旨味が引き立つ。
タレ仕立て系の味わい方
一方で、鍋そのものには味をほとんど付けず、ダシだけで煮込んでタレにつけて食べるスタイルもあります。代表的なのは次の二つです。
- 水炊き(ポン酢で食べるスタイル)
鶏や魚介、野菜をスープで煮込み、具材を取り分けてポン酢につけて食べるスタイル。
*ポン酢の薬味例:紅葉おろし・ねぎの千切り・柚子胡椒 - 湯豆腐(黄身ダレで食べるスタイル)
豆腐や肉(鶏皮)・野菜を煮て、卵黄に醤油・みりん・鰹節・青のりなどを加えたタレで食べる。濃厚なコクが生まれ、豆腐中心の鍋も満足度が高まります。
ちゃんこ鍋の人気具材ランキング20選
それではここから、しんざぶろうが現役時代の経験や個人的な好みも交えながら、ちゃんこ鍋に欠かせない人気具材ベスト20を発表していきます。
順位 | 具材 | 特徴・おすすめ |
---|---|---|
第1位 | 鶏つくね | 栄養・味・ボリュームすべてが揃った定番。どの部屋でも愛された鉄板の具材です。 |
第2位 | うどん・マロニー・くず切り(シメ)+雑炊の裏話 | うどんは王道のシメ。マロニーやくず切りはツルっとした食感が人気。
一方で、一般的に定番の雑炊は、相撲部屋では普段のシメとして食べることはありませんでした。 力士と雑炊の意外な関係
僕の部屋では、雑炊は普段のシメではなく、本場所前の調整食でした。幕下以下の力士は午前〜正午あたりに取り組みがあるため、当日の朝に軽く雑炊を食べて体を整えるのです。 昼の食事が遅くなる分、事前にエネルギーを入れておく必要がありました。体重や体調を維持するための大切な工夫でもあります。 |
第3位 | 鶏もも肉 | ちゃんこの王道。旨みが強く、出汁の基本を支える存在。ソップ鍋の主役でもあります。 |
第4位 | キャベツ | 一般家庭では珍しい具材ですが、塩ちゃんことの相性は抜群。煮込むと甘みがスープに溶け込み、ほどよく歯ごたえも残ります。
引退後に家庭で作った際に「キャベツを鍋に入れるんだぁ」と驚かれることもありました。 |
第5位 | いわしのつみれ | 魚の旨みがスープに溶け出す人気具材。大量に差し入れをいただくこともあり、もちろん手作りされていました。 |
第6位 | 牡蠣・ホタテ | 海鮮ちゃんこの主役。潮の香りと旨みで一気に豪華な鍋に。 |
第7位 | 白身魚(鱈など) | 冬に人気。煮崩れしにくく、あっさり上品な味わい。ポン酢でいただくのもおすすめ。 |
第8位 | 豚バラ肉 | 脂の甘みでスープにコクをプラス。特に味噌仕立てとの相性が抜群。ニンニクを加えるとさらに力士好みの味に。 |
第9位 | じゃがいも | ホクホクとした食感で腹持ちが良い。豚バラの味噌ちゃんこ鍋との相性も抜群です。 |
第10位 | 豆腐 | 崩れにくい木綿豆腐がおすすめ。ちゃんこ鍋に欠かせない定番。黄身ダレでいただく湯豆腐の場合は絹豆腐が向いています。 |
第11位 | しいたけ | 旨みの宝庫。出汁がしっかり出て、スープに深みを与えます。醤油ベースの鍋に特におすすめ。 |
第12位 | えのき茸 | シャキシャキ食感で火が通りやすい。どんな具材とも相性が良い便利な一品。 |
第13位 | 里芋 | ホクホク感でボリュームをプラス。腹持ちも良く、力士たちに好まれました。 |
第14位 | 長ネギ | 甘みと香りを兼ね備え、どんな鍋でも欠かせない万能野菜。 |
第15位 | 大根 | 煮込むほどに甘みが増し、スープをよく吸い込む冬の定番具材。 |
第16位 | ごぼう | 香りと独特の食感がアクセント。鶏肉との相性が良く、鍋に深みを与えます。 |
第17位 | 油揚げ | スープをよく吸い、旨みを広げる存在。味噌・醤油など、どんな鍋にも合います。 |
第18位 | 白菜 | ちゃんこの定番野菜。煮込むほどに甘みが増し、スープをよく吸います。醤油・味噌など、どんな味付けにも合う万能選手。 |
第19位 | もやし | 安価でかさ増しに便利。シャキシャキ感がアクセントになります。 |
第20位 | こんにゃく・しらたき | 低カロリーで食物繊維が豊富。スープをよく吸い、ヘルシーな名脇役です。 |
俺も本場所の朝に、調子に乗って雑炊を食べすぎたことがあったなぁ。お腹が重くて身体が思うように動かず、その日の取り組みは完敗…。
やっぱりコンディションを整えるのって、本当に難しいんだよね。
ランキングを見てもわかる通り、ちゃんこ鍋は具材の組み合わせ次第で本当に表情が変わります。ここからは、その中でも特に相撲界で定番とされる人気のちゃんこ鍋3種類を紹介していきましょう。
定番ちゃんこ鍋ベスト3 ― 部屋ごとに違う伝統の味
相撲部屋で食べられるちゃんこ鍋は、一見すると同じように見えても、実際には部屋ごとに味付けや具材が違います。代々受け継がれる伝統の味があれば、若い力士の食欲に合わせて工夫されたレシピもあり、それぞれに特色があるのです。
ここでは、特に代表的で多くの部屋で親しまれてきた「定番ちゃんこ鍋」を3種類ご紹介します。実際の映像資料も参考にしながら、それぞれの特徴を見ていきましょう。
1.ソップ炊きちゃんこ
〇主な具材
鶏ガラ(出汁)、鶏もも肉、玉ねぎ、ごぼう、にんじん、こんにゃく、キャベツ、小松菜、チンゲンサイ、油揚げ、キンカン(鶏の内臓卵)など
〇特徴
鶏ガラ出汁に醤油を合わせた甘辛スープが特徴。ごぼうの香りと野菜の旨味が溶け込み、さっぱりしながらも力強い味わい。相撲部屋の伝統を象徴する鍋で、「ちゃんこといえばソップ炊き」と言われるほどです。
以下の動画では、伊勢ノ海部屋が200年続く伝統のソップ炊きちゃんこを紹介しています。
豆知識:相撲用語「ソップ型」
ソップとは鶏を指す相撲用語。やせ型の力士を「ソップ型」と呼ぶのは、スープのダシを取る鶏ガラを連想させることから来ています。反対語は「アンコ型」という。
2.鶏の塩ちゃんこ
〇主な具材
鶏団子(つくね)または鶏もも、長ねぎ、ごぼう、大根、白菜、きのこ類(しいたけ・えのき)、青菜、厚揚げ豆腐など
〇特徴
鶏ガラや昆布ベースのスープに塩を加えたシンプルな鍋。鶏の旨味とふわふわのつくねが主役で、野菜の甘みと合わさり、あっさりしつつ食べ応えも十分。素材の味を生かした一品として、多くの部屋で愛されてきました。
以下の動画では、時津風部屋の力士が塩ちゃんこを作る様子が公開されています。
3.豚バラ味噌ちゃんこ
〇主な具材
豚バラ肉、キャベツ、長ねぎ、大根、ごぼう、にんじん、じゃがいも、えのき、にら、厚揚げ豆腐など
〇特徴
コクのある合わせ味噌をベースに、豚バラの脂と根菜の旨味が溶け込むパンチの効いた鍋。食べごたえ抜群で、特に若い力士の胃袋を満たすのに重宝されていました。白いご飯との相性も最高。
陸奥部屋の「味噌醤油ちゃんこ」の動画も参考になります。僕自身も試したことのない味付けで、今度挑戦してみたいと思います。
こうしてみると、鶏肉を使うことが多い気がするわね?何か理由があるのかしら?
ふむ、よき問いよ。
相撲の膳にて鶏肉が多く用いられるは、古より「二本足で立つ」鳥ゆえである。
猪や牛は四つ足にて歩む。これを食すは「四つん這いになる」に通ずると嫌われ、力士にとっては縁起悪し。対して鶏は常に二足にて立つ。その姿は土俵に立つ我らが如し。ゆえに「常に立ち続けよ」との願いを込め、鶏を食する習わしが生まれたのだ。
我が現役の折も、仲間と囲む鍋には鶏が並んだものよ。腹を満たすのみならず、心をも奮い立たせる一品であったぞ。
土俵は戦場なり。食うものひとつにも、勝負の縁起を重んじるのが力士の常よ。
ちゃんこ鍋の具材に関するよくある質問(FAQ)
Q. ちゃんこ鍋の具材で変わり種はありますか?
A. あります。たとえば九州場所の時には、高級魚「あら(クエ)」の差し入れがありました。身が引き締まって旨味が濃く、とてもおいしかったのですが、普段から食べられるものではないのでランキングからは外しています。
そのほかにも、アンコウやサザエといった差し入れをいただいたこともあります。(ちなみにサザエは、鍋ではなく“つぼ焼き”にして楽しみました!)
Q. ちゃんこ鍋の定番具材といえば何ですか?
A.部屋ごとに個性はありますが、ほぼ共通して入るのは次の具材です。
- 大根
- 人参
- 肉や魚(鶏・豚・白身魚など)
- きのこ類(しいたけ・えのき等)
- 豆腐(厚揚げ豆腐・油揚げ・焼き豆腐)
- キャベツまたは白菜
- ネギ
- 青菜(小松菜・春菊など)
これらの具材を基本に、その日の旬や差し入れに応じて具材を組み合わせていました。
Q. 余ったちゃんこ鍋や具材はどうする?
A. ちゃんこ鍋は稽古後のお昼に食べるので、残った場合は夕食に味噌汁へ仕立て直したり、そのまま温めて汁物としていただくことも多かったです。無駄なく使い切るのも、相撲部屋のちゃんこ文化のひとつでした。
残り物のちゃんこは、だいたい1〜3年目の新弟子たちが協力して片付ける役目だったんだ。それが済んでようやく、ちゃんとした夕飯の献立にありつける。
本当は作り立てのちゃんこを一番おいしい状態で食べたかったけど、そんな機会は滅多になかったなぁ。
まとめ
ちゃんこ鍋は、相撲部屋で力士の体を支えてきた大切な料理です。具材や味付けに決まりはなく、部屋ごとに特色があり、同じ「ちゃんこ」でも違った表情を見せます。
今回のランキングや定番鍋を振り返ると、鶏つくねや豆腐、野菜類などはやはり欠かせない存在でした。一方で、雑炊や残り物のエピソードにあるように、ちゃんこはただの鍋料理ではなく、力士の生活そのものに根付いていることがわかります。
家庭で楽しむなら、「鶏つくね・豆腐・白菜(キャベツ)」を基本にして、魚介や根菜を加えるのがおすすめ。ポン酢や黄身ダレなど、タレを変えるだけでも違った味わいになります。土俵を支えた伝統のちゃんこ鍋を、ぜひご家庭でも気軽に挑戦してみてください。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。
この記事を読みしそなたよ。
拙者の目から見れば、「ちゃんこ鍋」とはただの食にあらず。力士が一つ釜を囲み、親方と弟子が同じ味を分かち合うは、勝敗の外にある“道”を映した姿なり。稽古で汗を流し、土俵でぶつかり合い、そして膳を共にする──その循環こそ、力士の心身を育むもととなる。
記事に記された由来や工夫は、相撲を知る者にとって格別の味わいがあろう。もしそなたがこれを口にする折には、ただ「うまし」と喜ぶに留めず、そこに宿る力士の誇りと絆を思い起こされよ。
「礼を欠けば勝ちにあらず」。
食をもまた、礼と心を以て味わうが肝要ぞ。
雷電さんの時代にも、ちゃんこ鍋ってあったの?なんだかイメージできなくて気になるわ。
いや、それはなかったぞ。
拙者の現役の頃―天明・寛政の世には「ちゃんこ」という言葉も、鍋を力士の常食とする習わしも、まだ広まってはおらなんだ。力士の食は、米と味噌汁、魚に野菜、時に鳥肉や猪・鹿の類を加え、各々の宿舎にて調理したものを腹一杯に食すが常であった。
ただし「大鍋で皆が同じ物を食す」習いはあったゆえ、後の世に「ちゃんこ鍋」と名付けられたものの原型は、すでにわしらの暮らしの中に息づいておったと言えよう。
もし我が時代に「ちゃんこ鍋」という名で呼ばれておれば、弟子衆と共に囲むその姿は、さぞや和やかに見えたであろうな。結局のところ、名は違えど「力士は皆で釜を囲む」その精神は変わらぬものぞ。
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