新弟子が入ってくると、正直少しプレッシャーを感じていました。雑用が減って助かる一方で、「もし自分より強かったら」「番付を抜かれたら」と不安がよぎるのです。
現役時代の僕は、いつもそんな気持ちを抱えていました。けれど、今思えばあの時点ですでに心で負けていたのかもしれません。勝負の世界で勝つためには、「絶対に負けない」という覚悟が必要だと、今になって強く感じています。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
今回は、相撲界でいま最も話題になっている新弟子、オチルサイハン(バトツェツェゲ・オチルサイハン)をご紹介します。
モンゴル出身の23歳。身長187センチ・体重155キロという恵まれた体格を持ちながら、
俊敏な動きと爆発的な圧力を兼ね備えています。伊勢ヶ濱部屋で4年半ものあいだ研修を積み、ついに2025年九州場所での初土俵(前相撲)が決定しました。
その圧倒的な実力から「史上最強の新弟子」と呼ばれるオチルサイハン。
以下の動画では、幕下上位の力士たちとの稽古で、その強さを実際に目にすることができます。しかも、最後のインタビューでは病み上がりだったことを明かし、万全でない状態で十両目前の力士たちを圧倒していたのです。
元力士の僕から見ても、新弟子とは思えない、まさに「別格」の逸材と言えるでしょう。
この記事では、オチルサイハンのプロフィールや経歴、そして初土俵までの歩みなどを紹介していきます。
ぜひ最後までお付き合いくださいね。
オチルサイハンとは?プロフィールと出身背景
バトツェツェゲ・オチルサイハンは、2002年5月17日、モンゴルの首都ウランバートルで生まれました。子どものころから体を動かすのが大好きで、レスリングやバスケットボール、ボクシングなど、さまざまなスポーツに親しんできたそうです。
そして、スポーツの才能に恵まれていただけでなく、努力を重ねる姿勢も幼いころから身についていたようです。
- 本名:バトツェツェゲ・オチルサイハン
- 生年月日:2002年5月17日(23歳/2025年10月現在)
- 出身地:モンゴル・ウランバートル
- 出身校:神奈川県・旭丘高校(相撲部)
- 所属部屋:伊勢ヶ濱部屋
- 師匠:伊勢ヶ濱親方(元横綱・照ノ富士)
- 身長:185cm
- 体重:150kg
- 得意技:詳細未公表(稽古では突き押し・当たりの強さが際立つとされる)
- 血液型:未公表
- 初土俵:2025年11月(九州場所・前相撲で初土俵予定)
- 新弟子検査合格:2025年秋場所
- 家族構成:母
補足:叔母はブルマー・オチルバト(女子レスリングのモンゴル代表としてオリンピック出場経験あり)
家族について
オチルサイハンの家族については、これまでほとんど公にはされていません。母親の詳細は明らかになっていないものの、家庭はスポーツへの理解が深く、自然と競技に打ち込む環境が整っていたようです。
特に、叔母にあたるブルマー・オチルバトさんは女子レスリングのモンゴル代表として3度のオリンピックに出場した経験を持ち、国際的にも知られる選手です。
1982年5月28日生まれ(43歳/2025年現在)モンゴル出身の女子フリースタイルレスリング選手。20年近くにわたり第一線で活躍し、モンゴル女子レスリング界の第一人者として知られています。
【オリンピック出場歴】
大会 |
階級 |
成績 |
---|---|---|
2004年 アテネオリンピック |
女子フリースタイル 72kg級 |
10位 |
2012年ロンドンオリンピック |
女子フリースタイル 72kg級 |
ベスト8 (準々決勝敗退) |
2020年東京オリンピック |
女子フリースタイル 76kg級 |
1回戦勝利 →2回戦敗退 |
2004年のアテネ大会で初出場し、女子72kg級で10位に入賞。2012年ロンドン大会では同階級でベスト8(準々決勝敗退)と健闘しました。
さらに39歳となった2020年の東京大会では、アジア予選を2位で通過して出場を果たし、女子76kg級で1回戦を勝利。2回戦で惜しくも敗退しましたが、「8年ごとに3大会連続出場」という稀有な経歴を持つ選手として注目されました。
このように、幼いころからトップアスリートの姿を間近で見て育ったオチルサイハンさんにとって、努力や強さの象徴は、すでに家族の中に息づいていたのかもしれません。
家族の支えと影響が、彼の競技人生を後押ししていることは間違いないでしょう。
モンゴルから伊勢ヶ濱部屋へ─相撲への道
オチルサイハンさんが相撲の道を歩み始めたのは、日本への留学がきっかけでした。異国の地での挑戦は決して楽なものではありませんでしたが、そこで出会った仲間や指導者との経験が、力士としての基礎を形づくっていきます。
日本への留学と高校相撲との出会い
2018年春、15歳のときにスポーツ留学制度を利用してモンゴルから来日。神奈川県の相撲強豪校・旭丘高校に入学しました。高身長と恵まれた体格を生かしたいという思い、そして日本の相撲に憧れを抱いたことから、本格的に相撲を始めます。
当初は言葉の壁に苦労しながらも、稽古には常に全力。日本式の礼儀作法と厳しい稽古に真摯に向き合い、高校相撲界でもその名が知られるようになっていきました。
旭丘高校時代の主な実績
- 2018年(高校1年)
〇モンゴルから来日し、神奈川県・旭丘高校に入学。相撲部へ入部。 - 2019年(高校2年)
〇「世界ジュニア相撲選手権大会(大阪開催)」にモンゴル代表として出場。団体戦では準優勝、個人重量級で3位入賞(銅メダル)。
〇同年の国体では、神奈川県代表として団体戦ベスト8入りに貢献し、チームの中心として活躍した。 - 2020年(高校3年)
〇全国高校相撲選手権(元日相撲)に出場。3回戦で強豪・鳥取城北高校の選手と対戦するも惜敗し、全国32強。
〇旭丘高等学校相撲部について
オチルサイハンが3年間を過ごした「新名学園 旭丘高等学校」(神奈川県小田原市)は、全国でも名の知れた相撲の強豪校です。創立は1902年と歴史があり、相撲部では「感恩戴徳(かんおんたいとく)――恩を忘れず感謝する」を部訓として掲げ、技術だけでなく人間教育にも力を入れています。
相撲部は2011年に創部。全国高校選抜大会や金沢大会などで上位入賞を重ね、厳しい稽古の中にも礼節を重んじる文化が根づいています。
2016年からはモンゴル人留学生の受け入れを開始し、オチルサイハンもその流れの中で入学した一人です。
主なモンゴル出身の卒業生には、次のような力士がいます。
- 阿武剋 一弘(おうのかつ・かずひろ)
阿武松部屋所属。高校準優勝 → 日体大で学生横綱 → 2023年11月大相撲入り。2025年9月現在:東前頭6枚目(最高位:東前頭3枚目) - 旭海雄 蓮(きょくかいゆう・れん)
大島部屋所属。柔道から転向し、高校で全国3位入賞。日体大でベスト8など。 2023年11月に角界入り。2025年9月現在:東十両13枚目(最高位)
伊勢ヶ濱部屋入門と「4年半の研修生活」
高校卒業後、オチルサイハンは2021年春、伊勢ヶ濱部屋の門を叩きました。同部屋は、元横綱・旭富士(第9代伊勢ヶ濱親方)が築き上げた名門で、現在は元横綱・照ノ富士(第10代伊勢ヶ濱親方)が継承しています。
2025年9月現在、伯桜鵬関・熱海富士関・草野関・尊富士関・翠富士関・錦富士関・宝富士関(※宝富士関は2025年9月場所をもって引退) の7人の関取衆を抱える、現役最多の大所帯。厳しい稽古と礼節を重んじる伝統で知られ、横綱・日馬富士や照ノ富士など、モンゴル出身の大横綱を育て上げた実績もあります。
そうした環境は、モンゴルから夢を抱いて来日したオチルサイハンにとっては、まさに理想的な舞台といえるでしょう。
外国人枠に阻まれた「史上最強の研修生」オチルサイハン
2021年春、オチルサイハンは高校を卒業し、伊勢ヶ濱部屋の門を叩きました。しかし、当時は横綱・照ノ富士関が在籍していたため、日本相撲協会の規定により正式な入門は認められませんでした。
「外国出身力士は一部屋につき一人」
この「外国人枠」の制限により、オチルサイハンは約4年半にわたって“研修生”として修行を積むことになります。番付にも名前が載らず、給金もない日々。それでも稽古では一切手を抜かず、常に全力で土俵に向き合い続けました。
伊勢ヶ濱部屋は稽古の厳しさで知られ、オチルサイハンも関取衆の申し合い稽古に日々加わっていました。伯桜鵬関や熱海富士関といった実力者を相手に互角以上の取り口を見せることも多く、その才能は着実に部屋内外に知られるようになります。
霧馬山との激闘──「史上最強の研修生」の名を刻む
そして2023年2月、彼の名を全国に知らしめる出来事が起こります。
出稽古に訪れた当時小結の霧馬山関(現・霧島関)を相手に三番すべてで勝利。稽古ながら、その圧倒的な内容がスポーツ紙で報じられました。
極めつきは、出稽古に訪れた小結・霧馬山(26=陸奥部屋)との3番。初めて肌を合わせる次期大関候補と四つ相撲で互角以上に渡り合った。右からの小手投げ、右おっつけ左上手の寄り、右四つからの寄りで3番とも勝利。稽古とはいえ、デビュー前の“新弟子”が三役力士を圧倒。3人の関取衆を相手に計9勝7敗と堂々勝ち越した。
この勝負をきっかけに、オチルサイハンは「史上最強の研修生」として相撲ファンの注目を一気に集める存在となりました。
横綱・豊昇龍との出稽古──横綱をも圧倒した実力
さらに注目を集めたのが、2025年7月に行われた横綱・豊昇龍との稽古です。名古屋場所を前に、伊勢ヶ濱部屋の宿舎を訪れた豊昇龍でしたが、出稽古でオチルサイハンに敗れる場面が続き、横綱でさえ押し負けたと伝えられています。
これはまだ新弟子検査前の“研修生”が横綱に勝ち越すという前代未聞の出来事で、関係者の間では「横綱でも太刀打ちできない」との声が広がりました。報道によれば、この稽古で豊昇龍関が自信を失い、名古屋場所を途中休場する一因になったのでは?と伝えられています。
ところが、豊昇龍でさえオチルサイハンに負けを重ねてしまった。まだ入門前の研修生に横綱が勝てなかったわけです。自信喪失した豊昇龍の途中休場につながったといわれているほどでした。
以下の動画では、2025年大阪場所前の稽古で、オチルサイハンが関取衆と互角以上に渡り合う様子を見ることができます。伯桜鵬関や熱海富士関らを相手に力強い立ち合いを見せ、その潜在能力の高さがうかがえます。
その強さをぜひ確認してみてください。
念願の新弟子検査と初土俵へ
そして2025年、照ノ富士関(現・第10代伊勢ヶ濱親方)の現役引退により、外国出身力士枠がついに空きました。同年9月、オチルサイハンは秋場所前の新弟子検査に臨み、念願の合格を果たします。
これにより、興行ビザ取得後の九州場所(11月・福岡国際センター)で前相撲から初土俵を踏むことが決定。4年半におよぶ下積みを経て、ようやく角界デビューを迎えることになりました。
同部屋の尊富士関や熱海富士関ら若手力士も、長年ともに稽古してきた仲間のデビューを心から喜び、「ようやく一緒に戦える」「うちの最終兵器もようやくデビューですよ」といった声が上がりました。
<新弟子検査>
本日九月場所の新弟子検査が行われ、3名が受検しました。
九月場所初日に結果が発表されます。#sumo #相撲 #九月場所 #秋場所 pic.twitter.com/WocBJPHtwA— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) September 5, 2025
新弟子検査では、身長167cm以上・体重67kg以上が基本条件。身体測定・内臓検査・体力テストなどを経て合否が決まります。
さらに詳しい内容や「前相撲」「出世披露」などの流れは、以下の記事で解説しています。

オチルサイハンの強みと将来性
オチルサイハンの最大の武器は、187センチ・155キロの恵まれた体格と瞬発力。筋肉の鎧をまとったような体格ながら、動きは軽く、鋭い立合いから一気に相手を押し切るスピードは圧巻です。突き押しの威力だけでなく、柔らかい腰を生かした投げ技にも定評があり、四つ相撲でも高い適応力を見せます。
さらに、4年半の稽古生活で培った忍耐力と柔軟な発想力も彼の強み。関係者の間では「技の引き出しが多い」「状況判断が早い」と評され、その総合力はすでに幕内上位、あるいは三役級の実力とも言われています。
「28連勝」の期待と最速昇進への道
伊勢ヶ濱部屋の力士たちは、オチルサイハンの初土俵を前にして「デビュー28連勝だ」と冗談交じりに声をかけています。しかし、それは単なる冗談ではなく、彼の実力を知る者たちの本気の期待でもあります。
そして、この「28連勝」という数字には特別な意味があります。現在の大相撲における序ノ口デビューからの最多連勝記録は、元小結・常幸龍による27連勝。
もしオチルサイハンがこれを超えて4場所連続全勝=28連勝を成し遂げれば、前相撲を除き所要4場所で十両昇進という、前人未踏の大記録を打ち立てることになります。
それはつまり、初土俵前の段階ですでに関取級の実力があると、同部屋の力士や関係者たちが認めている証でもあります。伊勢ヶ濱部屋の中では、彼の強さを「最終兵器」と評する声もあり、新弟子としては異例の注目を集めているのです。
正式に研修生となった後の4月には「部屋のみんなからは『デビュー28連勝だ』と言われちゃってて」と、笑って明かしたことがあった。
〇連勝記録保持者:常幸龍 貴之(じょうこうりゅう たかゆき/木瀬部屋・元小結)
デビューからの27連勝、前相撲を除き所要5場所での十両昇進を果たした、史上最速タイ記録の力士。圧倒的なスピード出世で、当時「平成の怪物新人」と呼ばれた。
本場所開催 |
番付 |
勝敗 |
備考 |
---|---|---|---|
2011年5月場所 |
前相撲 |
– |
初土俵 |
2011年7月場所 |
序ノ口(西5枚目) |
7戦全勝 |
序ノ口優勝 |
2011年9月場所 |
序二段(西12枚目) |
7戦全勝 |
序二段優勝 |
2011年11月場所 |
三段目(東21枚目) |
7戦全勝 |
三段目優勝 |
2012年1月場所 |
幕下(東15枚目) |
6勝1敗 |
●決定戦を制して幕下優勝 ●7番目の取組で千昇に敗れ、デビューからの連勝は27で止まった *この27連勝は、初本割(序ノ口)からの最多連勝記録として今も残っている |
2012年3月場所 | 幕下(東4枚目) |
5勝2敗 |
●勝ち越しを決め、翌5月場所で新十両(西12枚目)に昇進 ●所要5場所での十両昇進は、史上最速タイのスピード記録 |
2012年5月場所 | 新十両(西12枚目) |
5勝2敗 |
十両昇進 |
*この昇進は、前相撲を除き所要5場所というスピード記録で、板井圭介・土佐豊と並び史上最速タイの十両昇進として記録されている。
なお、十両昇進のスピードにおいて、同部屋の伯桜鵬は幕下付け出し力士として歴代1位の記録を保持しています。そして、現・横綱の大の里は、幕下付け出しとして歴代2位のスピード出世を果たしました。
以下の記事では、大の里の十両昇進までの星取表や学生時代の活躍などを紹介しています。ぜひ、あわせてご覧になってみてください。

相撲ファンの声と期待
4年半にわたる研修生活を終え、ついに土俵に立つオチルサイハン。その名前はすでに相撲ファンの間で広く知られ、「史上最強の研修生」のデビューを待ち望む声が高まっています。
「大の里、豊昇龍、安青錦、そしてオチルサイハン――この4人で新しい時代が来る」と期待するファンの声も多く、角界は久々に“黄金時代”の到来を感じさせる熱気に包まれています。
オチルサイハンが幕内に上がってきたら大の里と豊昇龍のライバルになりそう。
— エドガー@低浮上気味 (@Kazuma_knight42) September 28, 2025
大の里、豊昇龍、安青錦、オチルサイハンくんの全員万全な状態での真4横綱時代が来る可能性も十分あるのでみんなも大相撲を見よう
— ちゃも太郎 (@chamop15) October 1, 2025
スピード出世の化け物が大の里、安青錦と続いているけど更にオチルサイハンが控えている相撲界
黄金時代到来しそう— no-ko (@nougyokougu) October 10, 2025
〇スー女代表「山根千佳さん」もオチルサイハンに注目!!
相撲好きタレントとして知られる山根千佳さんも、オチルサイハンの実力に注目しています。自身のX(旧Twitter)では、次のように投稿しました。
めちゃくちゃ強いらしい
オチルサイハンくん来るぞ…🔥🔥🔥
もう大関くらいの実力があるとか
噂を聞くんだけど…どうなんだろう…笑 #sumohttps://t.co/b6CMZThCJc— 山根千佳 (@yamane_chika) July 20, 2025
なお、山根千佳さんのプロフィールや、彼女が語る“相撲愛”について、以下の記事で紹介しています。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。

まとめ
オチルサイハンの4年半におよぶ修行と忍耐の末にようやく掴んだ初土俵は、「努力が報われた瞬間」であり、同時に相撲界の新たな幕開けでもあります。
伊勢ヶ濱部屋の伝統を受け継ぎながら、自らの時代を切り拓いていくその姿には、未来の横綱を思わせる風格があります。豊昇龍、大の里、安青錦らとともに、角界を次の黄金期へ導く存在になる可能性は、十分にあるでしょう。
これからどんな相撲を見せてくれるのか。私しんざぶろうも、一人の相撲ファンとして、その瞬間を全力で見届けたいと思います。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。
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