なぜ禁じ手があるのか?
大相撲の反則行為は「禁じ手」とも呼ばれています。禁じ手が定義されているのは、まず第一に力士の安全を守るためです。
相撲は、力と技の競技であると同時に、古くから続く日本の文化であり、国技でもあります。そのため礼儀や規範を重んじることが非常に重要視されており、力士たちが守らなければならないルールとして「禁じ手」が設けられているのです。
そして何より、相撲観戦を楽しみに来ているファンは、乱暴な行為を見たいわけではありません。相撲に限った話しではありませんが、競技をする側も見る側も、安心して楽しむためには、危険行為はルールとして明確に定めて防ぐことが必要ですよね。
禁じ手を行うとどうなる?
大相撲では、禁じ手は「8つ」定められており、この行為に該当した場合、その力士の反則負けとなります。反則の判断は、行事と審判委員によって判定されます。
しかし、後述いたしますが、禁じ手の中でも、故意に行われたものなのか、わざとでなく過失によるものなのか、判断が難しい場合がほとんどで、事例は多くありません。
禁じ手一覧
それでは、ここから8つの禁じ手を紹介していきます。
1.握り拳(こぶし)で殴る
ボクシングや総合格闘技のように、拳で殴る行為です。
もちろん、張り手や突っ張りは反則ではありません。
2.頭髪を故意につかむ
髷をつかむと、力士の頭や首が不自然な角度に引っ張られることになります。相撲は非常に力強い競技なので、髷をつかむことで首や脊椎に過度な負担がかかり、頚椎(けいつい)の損傷や捻挫、さらには脊髄損傷などの重篤な怪我につながる恐れがあります。
またバランスを大きく崩し、思わぬ方向に転倒することが考えられます。このような転倒では受け身もとれず、土俵外への落下や頭部の打撲など、深刻な怪我を引き起こすリスクもあります。
そして、この禁じ手は主に「はたき込み」を行った際に判定されることが多く、この技は故意なのか過失なのかを判断するのは非常に難しいと言えます。
そういった判定が難しいグレーな状態が影響したのか、この禁じ手は2000年代には急増してしまいます。そういった状況を改善すべく、2014年に規則が改訂され「故意でなくても頭髪(まげ)をつかんだら反則」と、ルールが変更されています。
3.目または水下(みぞおち)などの急所を突く
目を突く行為は、眼球に直接的なダメージを与え、角膜損傷、網膜剥離、失明といった深刻な障害を引き起こす危険があります。そうなったしまったら、力士としてのキャリアのみならず、その後の日常生活にも多大な影響を与えてしまいますよね。
また、みぞおちへの攻撃は、内臓へのダメージや肋骨骨折、一時的な意識喪失を引き起こす可能性があります。相撲の取り組み中に意識を失うと、さらなる怪我や事故を招くリスクが高まり、危険な行為といえます。
4.両耳を同時に両方の手のひらで張る
両耳を同時に強く張ると、耳に急激な圧力がかかり、鼓膜が破れる危険があります。鼓膜の破裂は、耳鳴り、激しい痛み、さらには聴力の喪失を引き起こす可能性があります。
余談ですが、破れた鼓膜って自然に治ることもあるって知ってましたか?
僕が相撲界に入ったとき、鼓膜が破れてしまった力士がいたんです。そのとき、「これってもう一生耳が聞こえないってこと?」と不安になり、相撲が怖くなりました。
しかしそのあと、自然に治ることもあると聞いて、ホッとした記憶があります。
ちなみに、その力士の鼓膜が破れたのは、禁じ手によるものではありません。
5.前縦褌(まえたてみつ)をつかみ、また横から指を入れて引く
前縦褌とは、前袋(まえぶくろ)とも言われます。
つまり「股間」「陰部」です。ですので、後半の「横から指を入れて引く」とは、何を?となりますが、そういうことです。
なお、前褌(まえみつ)は、前まわし(腹部)のことで、この部分のまわしを取ることは反則ではありません。
6.のどをつかむ
対戦相手の「のど」を平手で締めたり(握ったり)する行為は反則です。一方、突き押しや突っ張りなどの流れで行われる「のど輪」は、反則にはなりません。
ちなみに僕は「のど輪」と聞くと元横綱「曙」のイメージが強いですね。若貴との対戦は、いつも楽しみにしていました。
7.胸・腹をける
相手の足を払ってバランスを崩す技「けたぐり」などはありますが、胸や腹を蹴ってしまっては相撲ではないですからね・・・
8.指を持って折り返す
相手の指をつかんで、強引に逆関節へ曲げたり引っ張ったりする行為です。
説明するまでもないと思いますが、指の可動と反対方向に曲げることで、指が骨折したり、関節が外れたりする危険性があります。
過去に事例はある?
8つの禁じ手を紹介してきましたが、実際に適応されたのは僕が調べた結果からいうと、
「頭髪をつかむ」のみでした。
その中から、1つ直近の事例を紹介します。。
【平幕】
●宇良VS〇平戸海
⇒宇良が放った下手投げの際に「まげをつかんだ」として、宇良の反則負け
反則負け?
反則負けと言えるのか判断が難しいのですが「不浄負け」というのをご存知でしょうか?
これは、まわしが解けて「陰部」が見えてしまった場合、その力士の負けというものです。
禁じ手で紹介した「前縦褌(まえたてみつ)をつかみ、また横から指を入れて引く」は、対戦相手によるものですが、「不浄負け」は、本人に責任があるという判断なのかもしれません。
なぜかというと、四つが得意な力士は、作戦の一つとして、わざとまわしを緩めに締めることがあります。こうすることで、相手がまわしを取っても、まわしが伸びて力が伝わりにくくなり、自分に有利な組手を作りやすくなるのです。(逆にまわしを固く締めて、まわしに指が入りづらくする力士もいます。)
こうした要因が重なると、まわしが解けてしまい「不浄負け」のリスクが高まりますよね。
なぜ、まわしを相手に取らせないことが有利になるのか?ピンとこないって方は、こちらの記事をおすすめします。
ただ、通常は行司が「待て」をかけて取り組みを中断し、まわしを締め直してくれるため、ほとんど起こりえないことです。しかし、過去には実際に事例があったので、ここでご紹介します。
【三段目】
●朝ノ霧VS〇千代白鵬
⇒まわしの前袋が外れて、朝ノ霧の負け
この取り組みは、83年ぶりの「珍事」「モロ出し」などとして、当時メディアでも大きくとり上げられました。
さくら
見てみたかったわ。
元力士 まさる