相撲雑学

平幕優勝って何がすごいの?元力士がその価値と事例を徹底解説!

僕は序二段の時に、初日から5連勝したときは『優勝できるかも』なんて、淡い期待を抱いたことがありました。その後、きっちり2連敗しましたけどね(-_-;)
元力士のしんざぶろうです。こんにちは!

相撲の世界では、横綱や大関などの上位力士が優勝するのが一般的です。しかし、それ以外の力士が優勝することもあり得ない話ではありません。

相撲では横綱と三役以外の力士を平幕力士と呼びますが、時折そうした力士が優勝することがあります。と言っても、平幕力士が優勝するのは、まるで宝くじに当たるような非常に珍しい出来事だったりもするんですけどね。

しかし、その珍しさゆえに、相撲ファンは「平幕優勝」に期待し、熱狂します。弱い立場から逆転するストーリーは、多くの人に愛されるものですよね。

今回は、そんな「平幕優勝」にスポットを当てて解説していきます。
この記事を読むと、次のことがわかります。

  • 「平幕優勝」とは何なのか?
  • 「平幕優勝」が、どれほどすごいことなのか?
  • なぜ平幕力士が優勝できるのか?

これらを理解すれば「今場所はもしかしたら平幕優勝があるかも」など、予測を立てながら相撲観戦を楽しむこともできます。

さらに、横綱や三役の上位力士の立場などについても、僕なりの見解を交えながら話していますので、ぜひ最後までお付き合いくださいね。

相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
私は優勝が決まる取り組みが一番好き!
緊張感が伝わってすごくドキドキするのよね。

そもそも平幕優勝の「平幕」って何?

平幕優勝の話を始める前に、前提情報として「幕内」と「平幕」について知っておく必要があります。ではさっそく順番に解説していきますね。

幕内とは

幕内(まくのうち)とは、大相撲の番付で前頭以上の力士を指し、相撲界の最高位に位置します。前頭、関脇、小結、大関、横綱の5つのランクがあり、定員は40人以内です。NHKの相撲中継では、午後4時前後に土俵入りをする力士たちが「幕内力士」と呼ばれます。

この呼称は、江戸時代に将軍が相撲を観覧する際、優れた力士が幕の内側に招かれたことから、「幕の内に入る力士」という意味で使われるようになりました。幕内は十両の上に位置し、現在では相撲界の最上級の地位を象徴しています。

平幕とは

平幕(ひらまく)とは、幕内力士のうち、横綱や三役(大関、関脇、小結)を除いた力士を指します。前頭とも呼ばれ、最上位の力士は「前頭筆頭」、以下「前頭二枚目」「前頭三枚目」と続きます。役職がない力士という意味から「平幕」という名称が使われます。

平幕優勝とは

上記の説明を読んでいただければ想像がつくと思いますが、平幕優勝とは、先ほどの役職がない力士「平幕」=「前頭」が、幕内で優勝することを指します。通常は優勝の候補に挙げられることが少ない存在ですが、稀に波乱の展開が起き、平幕力士が優勝することがあります。

なぜ幕内の下が「十両」なの?

十両の正式名称は「十枚目」といいます。これはどういうことかといえば、幕下の上位「十枚目」という位置づけから来ています。

江戸時代には「十両」という階級はなく、幕内の下の階級が、その名の通り「幕下」でした。その後、明治21年に給与制度が導入される際、「幕下の上位10枚以内」の力士にも給与を支払うことになり、「十枚目」という階級が誕生しました。

当初は「十枚目の二枚目」「十枚目の三枚目」などと呼ばれていましたが、紛らわしいため、現在の「十両」という名称が定着しました。
*ちなみに現在(2024年)の十両は14枚目まであり、東西あわせて「28名」が定員となっています。

幕内だけでなく幕下以下の階級について、ピラミッド図を使って解説した記事もあります。番付の裏話なども語っていますから、ぜひこちらもご覧になってください。

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平幕優勝の難しさとその価値

相撲では、格の違いがはっきりと現れやすく、格下の力士が格上に勝つのは非常に難しいものです。横綱や大関などの上位力士と平幕力士との力の差は歴然としており、稽古場で平幕力士が勝つことはほとんどありません。実際の稽古と少し状況が違いますが「稽古総見」を観ていただくと、その差がよくわかると思います。

横綱審議委員による稽古総見

稽古総見は、1月、5月、9月の年3回、場所前に開催され、横綱審議委員の方々が力士たちの状態を確認するために行われます。年に1回だけ一般公開されており、普段見ることのできない力士たちの真剣な稽古を間近で観ることができます。

また、YouTubeでも視聴できるので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。横綱や大関が土俵に上がると、下位の力士では「ほぼ勝てない」という様子がよくわかります。

それでも、その壁を乗り越えなければ番付を上げることはできないのが、相撲の厳しさであり魅力でもありますね。

ここからは、僕の経験についてお話しします。相撲の稽古には「申し合い稽古」というものがあり、これは「勝ち残り戦」の形式で行われます。勝った力士が土俵に残り、次に挑戦者が申し出て稽古を繰り返すシステムです。

毎日、この「申し合い稽古」が行われていましたが、僕は主に幕下以下の力士たちと稽古をしていました。その中で、土俵に残るのはほとんどが「幕下」の力士です。三段目の番付上位力士がたまに勝つことはあっても、連続して勝つのは非常に難しいものでした。

幕下力士は、スタミナを消耗しながらも勝ち残り、次々と挑戦者を迎えることになりますが、スタミナが切れたとしても下位の力士が勝つことは滅多にありませんでした。自分より番付の上の力士に勝つことの難しさを、身をもって経験しました。

今振り返ると、僕の場合、この稽古で「番付が上の力士には勝てない」というイメージが強く染みついてしまっていたように思います。そんな気持ちでは、出世できるわけがないなぁと、今になって反省しています。

稽古について詳しく知りたい方は、こちらの記事でも稽古内容を少し紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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相撲観戦が大好き
さくら
相撲観戦が大好き
さくら
そうなんだぁ。
でも、そこまで力の差があるのに、なんで平幕の力士が優勝できるんだろう?

なぜ平幕力士が優勝できるのか?背景と理由

  • 平幕力士が優勝できる要因
    ●上位力士が調子を崩していたり、ケガで欠場することが増える場所では、平幕力士がチャンスを得やすくなる。
    ●平幕の中でも下位の力士(幕尻)は、十両力士とも対戦することもあるため、有利だと言える。
    ●平幕力士は上位力士に比べてプレッシャーが少なく、リラックスして取組に臨むことができる。
    ●平幕力士は何をしても比較的許容され、「何をしてくるかわからない」ことから、上位力士を慎重にさせる。
  • 横綱・三役のプレッシャー
    ●横綱や大関は「勝って当たり前」という期待が大きく、優勝がかかる一番では「絶対に負けられない」というプレッシャーが増す。
    ●対戦相手が格下の平幕力士だと、その精神的な負担はさらに大きくなる。
  • 横綱・大関の取り口への制約
    ●横綱や大関は相撲界の象徴的な存在であり、その責任があります。立ち合いでの変化や引き落とし、張り手などの技は「姑息で卑怯」と見られやすく、批判されることもある。
    ●横綱や大関は慎重な相撲になりやすく、平幕力士に対して受け身になりがち。

平幕力士が優勝できる背景には、さまざまな要因があります。例えば、上位力士が調子を崩していたり、ケガで出場を辞退することが多い場所では、平幕力士がチャンスをつかむ可能性が高まります。

また、平幕の中でも下位の力士(幕尻)は、十両力士とも対戦することもあるため、上位力士と総当たり戦を繰り広げる「横綱・三役」と比べると、非常に有利だと言えます。

さらに、平幕力士は上位力士に比べてプレッシャーが少なく、リラックスして取組に臨めることも大きな要因です。一方で、横綱や大関は「勝って当たり前」と見られているため、優勝がかかる大一番で格下の平幕力士と対戦する場合、「絶対に負けられない」というプレッシャーが大きくなります。これが精神的な負担となり、取り組みに影響することも少なくありません。

さらに、横綱や大関は「品格」を問われることも多く「力士の象徴」ともいえる立場で、その取り口にも気を配らなければならない存在です。例えば、立ち合いでの変化や引き落とし、張り手などは「卑怯で姑息」というイメージを持たれやすく、ファンや関係者から批判されることがあります。こうした技を横綱や大関が使えば、格下の力士に対して「逃げた」と思われることは避けられません。

一方、平幕力士は何をしても比較的許容される部分があり、「何をしてくるかわからない」という不確定要素が上位力士を慎重にさせることになります。そのため、横綱や大関は受け身の相撲になることが多く、自然と不利な立場に追い込まれています。

結局のところ、横綱は本場所において「かなり不利な立場」に置かれているといえます。しかし、だからこそ、その逆境を乗り越え、優勝を果たす「横綱」は、偉大だと言えるのでしょう。

平幕優勝の恩恵は?

平幕力士が優勝するということは、上位力士との対戦に勝利していることを意味します。その結果、様々な恩恵を受けることができます。ここでは、その恩恵について簡単に紹介し、一覧表にまとめました。

項目 内容 備考
懸賞金 懸賞旗1本=7万円で、力士の手取りは3万円。その取り組みに勝利した力士が手にすることができる。 優勝争いに加わると注目度が増し、懸賞金の額も吊り上がる。
金星 平幕力士が横綱に勝つと「金星」がもらえる。金星1つで、「持ち給金」が10円プラスされる。 優勝するとなると、横綱に勝利する場合が多い。
三賞 敢闘賞・技能賞・殊勲賞・それぞれ200万円。すべてを受賞することもある。 平幕で優勝を果たすので受賞する確率が高い。
優勝賞金 1000万円 大相撲での最高優勝。幕内優勝。
番付の昇格 ・前頭上位=三役の期待が高い。
・前頭下位=前頭上位または三役。
勝利数による影響も大きい。(たとえば全勝と14勝では大きな差がある)

表の中で出てきた「持ち給金」や「懸賞金の内訳」など、気になる方もいらっしゃるかも知れませんね。お時間があれば、力士の収入に関して解説した記事がありますので、ぜひご覧ください。

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過去の有名な平幕優勝事例

ここでは、僕の記憶に強く残っている平幕優勝を3つご紹介します。他にも数多くの平幕優勝があるのですが、今回は僕の独断と偏見で選ばせていただきました。

朝乃山 広暉(あさのやま ひろき)

  • 優勝場所:令和元年5月場所
  • 優勝時の番付:西前頭8枚目
  • 優勝時の成績:12勝3敗
  • 翌場所の番付:東前頭筆頭

朝乃山の平幕優勝は、まさに歴史的快挙でした!富山県出身の力士が優勝するのは、なんと大正5年の横綱・太刀山以来103年ぶり。そして、三役を経験せずに優勝するのは、昭和36年の佐田の山以来、実に58年ぶりの出来事です。

さらに、髙砂部屋としては朝青龍以来の優勝で、令和初の幕内最高優勝という記念すべきタイミングでした。おまけに、来日していたドナルド・トランプ大統領から「アメリカ合衆国大統領杯」を受け取るという、史上初の栄誉も獲得!なんとも豪華な幕内優勝となりました。

徳勝龍 誠(とくしょうりゅう まこと)

  • 優勝場所:令和2年1月場所
  • 優勝時の番付:西前頭17枚目(幕尻)
  • 優勝時の成績:14勝1敗
  • 翌場所の番付:西前頭2枚目

徳勝龍の平幕優勝は、まさに記録づくめの快挙でした!千秋楽では、大相撲史上初の幕尻力士として「これより三役」に登場。さらに、結びの一番で大関・貴景勝を下し、98年ぶりに奈良県出身の力士として幕内最高優勝を果たしました。

幕尻での優勝は、貴闘力以来20年ぶりで、しかも自分より下位の力士がいない状態での優勝は史上初。また、西前頭17枚目という最低番付での優勝も初めてのこと。返り入幕での優勝も史上初という、まさに記録のオンパレード!さらに、三役経験のない力士としての優勝は史上4人目。歴史に残る驚きの優勝劇ですね。

玉鷲 一朗(たまわし いちろう)

  • 優勝場所:令和4年9月場所
  • 優勝時の番付:東前頭3枚目
  • 優勝時の成績:13勝2敗
  • 翌場所の番付:東小結

玉鷲の平幕優勝も、まさに記録尽くしでした!平幕力士として横綱・大関戦で全勝(1横綱3大関)したのは、1985年の北尾(後の双羽黒)以来37年ぶり。そして、37歳10ヶ月での優勝は昭和以降最年長記録で、三賞受賞も高齢記録の5位という偉業です。

さらに、次の場所では本来小結に上がる枠がなかったものの、特別に東の正小結として番付に名前が載りました。会見では「勝とうと意識せず、いつもの九州場所だと思って臨みたい」と意気込みを語り、38歳という年齢については「年はただの数字!まだまだ若々しい相撲を取るぞ!」と元気いっぱい。さらに「二度あることは三度ある」と三度目の優勝にも意欲を燃やしています。

2024年現在も現役で、笑顔と闘志で相撲ファンを魅了し続けている玉鷲。これからも注目していきたい力士の一人ですね。

管理人の後輩
元力士 まさる
管理人の後輩
元力士 まさる
僕も一度でいいから、各段で優勝してみたかったなぁ

まとめ

平幕優勝は、相撲界の大番狂わせ!滅多に見られないだけに、その瞬間は相撲ファンにとって忘れられない特別なものです。

とはいえ、横綱が優勝するのが「当たり前」と思われがちですが、実はものすごいプレッシャーを背負っているんですよね。その視点で横綱の相撲を見てみるのも、また一興です。

強い横綱の力を見たい気持ちもわかりますが、下位の若手力士が奮闘して勝ち進む姿も見逃せません。そう考えると、相撲観戦の楽しみ方がさらに広がって、ますます相撲が面白くなりますね!

今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
また、次回の記事でお会いしましょう。