相撲の「とったり」とは?禁止技なの?逆とったりとの違いまで元力士が解説
現役時代、僕の師匠は稽古中に危険な技を使うことにとても厳しい人でした。特に小手投げや鯖折りのように、相手の関節や体に大きな負担がかかる技は、稽古では使わないよう強く言われていたんです。
その流れもあって、相手の腕を抱えて捻る「とったり」も、稽古で不用意に使うような技ではありません。
それでも、本場所で勝つためにはどんな技があるのかを知っておく必要があり、土俵の外で他の弟子と形だけ確認し合っていました。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
「とったり」と聞いても、どんな技なのかすぐにイメージできない方が多いのではないでしょうか。
また、腕を抱えて捻る技と聞くと、「関節を極めるような技なら、相撲では禁止されているのでは?」と思う方もいるかもしれませんね。
結論から言うと、とったりは危険を伴う技ではありますが、相撲では正式に認められている決まり手です。
ただし、稽古で軽い気持ちで使うと、相手の肘や肩に大きな負担がかかることがあります。
とったりは、本場所では決まり手として認められているけど、稽古で気軽に出すような技ではないんだよね。
腕を取る形になるから、かけ方によっては相手の肘や肩に大きな負担がかかることもあるんだ。
この記事では、とったりの意味や基本の動き、禁止技との違い、逆とったりとの関係、実際の取組例まで、元力士の体験も交えながら解説していきます。
とったりとは?基本の動きをわかりやすく解説
「とったり」は、言葉だけで説明されても少しイメージしにくい決まり手かもしれません。
そこでここでは、図解のイラストも見ながら、とったりがどんな技なのかを整理していきましょう。
図解で見る「とったり」の基本動作
「とったり」の流れを大まかに見ると、次のようになります。
- 相手が差し手やもろ差しを狙って腕を出す
- その片腕を両手で抱え込む
- 自分の体を開くようにしてひねる
- 相手の体勢を崩して倒す
図解では、相手の片腕を抱え込んで、体を開きながら崩している場面に注目してみてください。
簡単に言うと、とったりは相手の片腕を両手で抱え込み、体を開きながら手前に捻り倒す決まり手です。
ただ腕をつかむだけではなく、相手の腕が伸びた瞬間をとらえて、自分の体を開きながら崩していくところがポイントです。
図解を見ると何となくイメージはできましたが、ただ腕を取るだけじゃなくて、タイミングや体の使い方が大事なんですね。
思っていたより難しそうな技ですね…。
日本相撲協会による解説
とったりは、日本相撲協会が定める「決まり手八十二手」のひとつです。
危険なイメージが先に立ち、「とったりは禁止技なのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、相撲の禁じ手ではなく、正式に認められている決まり手です。
- 突き押しの攻防や差し手争いの中で起こりやすい
- 相手の片腕を両手で抱え取る
- 体を開いて、手前にひねり倒す
- 決まり手八十二手のうち「捻り手」に分類される
このように公式情報からも、とったりはまわしを取らず、相手の腕を利用する決まり手だとわかります。
一瞬で勝負が決まることもある、少し特殊な技といえるでしょう。
とったりが起きる場面と逆とったりとの違い
前の章で見たように、とったりは相手の腕を利用して決まる技です。
では、実際の取組ではどんな場面で起きやすいのでしょうか。
ここでは、とったりが生まれやすい場面と、返し技である「逆とったり」との違いを整理していきます。
とったりが起きやすい場面
とったりは、最初から真正面に狙っていくというより、流れの中で相手の腕が伸びた一瞬に出やすい決まり手です。
特に、次のような場面で起こりやすくなります。
- 相手が差そうとして腕を出したとき
- 相手の腕が伸びて、体勢が前のめりになったとき
- 相手の勢いや圧力を利用して、横へ回り込むように崩せるとき
このように、とったりは相手の攻めを利用して形勢を変える技です。ただし、腕を取った側が必ず有利になるとは限りません。
次に、とったりを仕掛けられた側が返す技である「逆とったり」を見ていきましょう。
逆とったりとは?
逆とったりは、とったりを仕掛けられた側が、取られた腕を抜くようにして体を返し、逆に相手を倒す決まり手です。
日本相撲協会公式サイトでは「逆取ったり」と表記され、こちらも決まり手八十二手のひとつとして紹介されています。
- とったりを打たれたときに出る返し技
- 取られた腕を抜くようにして腰をひねる
- 逆に相手を倒して勝つ
- 決まり手八十二手のうち「捻り手」に分類される
とったりと逆とったりの違いを簡単にまとめると、次のようになります。
| 決まり手 | 技の関係 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| とったり | 腕を取って仕掛ける | 腕を取った側が倒しにいく |
| 逆とったり | 取られた腕を利用して返す | 取られた側が体を返す |
つまり、とったりと逆とったりは、仕掛けと返しが表裏一体の関係にある技です。
腕を取った側が有利に見えても、取られた側がうまく体を返せば、逆に倒されることがあります。
とったりは決まり手として多い技ではない
とったりは印象に残りやすい技ですが、決まり手としては決して多くありません。
記事作成時点の公式情報では、次のように紹介されています。
| 決まり手 | 回数・割合 | 順位 |
|---|---|---|
| とったり | 369回・0.2% | 25位 |
| 逆取ったり | 36回・0.02% | 54位 |
※平成25年一月場所から令和8年七月場所初日までの取組をもとにした公式情報です。
数字を見ると、とったりや逆とったりは、いつでも簡単に出る技ではないことがわかります。
相手の腕が伸びるタイミング、体の開き方、重心の崩れ方がうまく重なって、ようやく決まる繊細な決まり手といえるでしょう。
とったりの割合が0.2%と聞くと、かなり少ない技だってわかるね。
でも、その少ない決まり手で名前が出てくる力士は、やっぱり技の引き出しが多いんだろうな。
宇良関に見る、とったりと逆とったりの面白さ
とったりの多い力士として名前が挙がる宇良関を例に、実際の取組でとったりと逆とったりの攻防を見ていきましょう。
その攻防を理解するうえで、ぜひ見ておきたいのが、令和8年一月場所9日目の霧島と宇良の一番です。
発生率0.02%とされる逆とったりが、どのように決まるのかを見られる貴重な一番です。宇良がとったりを仕掛け、そこから霧島が逆とったりで返す流れに注目してみてください。
- 宇良が霧島の腕を取る場面
- 霧島が腕を取られても体勢を崩さないところ
- 霧島が体を返して、逆に倒しにいく動き
- 腕を取った宇良が、逆に返される流れ
この取組を見ると、とったりと逆とったりが表裏一体の技であることがよくわかります。
とったりは、仕掛ける側の技術だけでなく、返す側の反応や体の使い方も見どころになる決まり手です。
とったりが得意な宇良関でも、逆に返されることがあるんですね!
腕を取ったら終わりではなくて、そこから返されることもあるとわかると、最後まで勝負がどうなるかわからなくて面白いです!
相撲史に残るとったり|千代の富士と貴闘力の一番
とったりが決まった取組の中でも、相撲史に残る一番として語られるのが、平成3年五月場所3日目の横綱・千代の富士と小結・貴闘力の取組です。
この一番で、貴闘力は大横綱・千代の富士を「とったり」で破りました。千代の富士はその後、現役引退を表明しています。
- 場所:平成3年五月場所3日目
- 取組:千代の富士 対 貴闘力
- 勝者:貴闘力
- 決まり手:とったり
- この取組後、千代の富士は現役引退を表明
とったりだけが引退の理由ではない
ここで大事なのは、「貴闘力戦のとったりが千代の富士の引退を決めた」と単純には言えない、ということです。
日刊スポーツの復刻記事では、千代の富士が取組前から負けた場合の引退を覚悟していたことが紹介されています。
「負けたらやめる」
これまで食ったこともない「取ったり」
引退を決意させたのは、初日の貴花田との対戦だった。
- 平成3年五月場所3日目、貴闘力にとったりで敗れた
- この黒星は、初日の貴花田戦に続く2敗目だった
- 貴闘力戦の前から、負けた場合の引退を覚悟していた
- 日刊スポーツの記事では、初日の貴花田戦が引退の決意に関わっていたと紹介されている
- 最後の黒星となった一番の決まり手が「とったり」だった
つまり、とったりだけが引退の理由だったわけではありません。
ただ、それでも大横綱の土俵人生の節目に「とったり」という決まり手が刻まれたことは、とても印象的です。
千代の富士ほどの大横綱でも、一瞬の腕の取られ方や体勢の崩れで勝負が決まるんだね。
とったりは珍しい決まり手だけど、大横綱の最後の一番に刻まれたと思うと、やっぱり印象に残る決まり手だと思うな。
なお、横綱という地位の重みや、横綱が引退を選ぶ背景については、こちらの記事でも解説しています。
とったりに関するよくある質問
最後に、とったりについて読者の方が疑問に感じやすいポイントをQ&A形式で整理します。
Q1. とったりとはどんな決まり手ですか?
A. とったりとは、相手の片腕を両手で抱え込み、体を開きながらひねり倒す決まり手です。
突き押しの攻防や差し手争いの中で、相手の腕が伸びた瞬間に決まることがあります。まわしを取る技ではなく、相手の腕を利用して体勢を崩すところが特徴です。
Q2. とったりは相撲の禁止技ですか?
A. とったりは相撲の禁止技ではありません。
日本相撲協会が定める決まり手八十二手のひとつで、「捻り手」に分類される正式な決まり手です。
ただし、相手の腕に負担がかかることもあるため、危険を伴う技ではあります。
Q3. とったりと逆とったりの違いは何ですか?
A. とったりは、相手の腕を取って仕掛ける技です。
一方、逆とったりは、とったりを仕掛けられた側が、取られた腕を抜くようにして体を返し、逆に相手を倒す決まり手です。
簡単にいうと、とったりが「仕掛ける技」、逆とったりが「返す技」という関係です。
Q4. とったりが多い力士は誰ですか?
A. 公式情報では、とったりの多い力士として宇良の名前が挙がっています。
宇良は多彩な技を持つ力士として知られており、とったりのような一瞬の判断や体の使い方が求められる技でも注目される存在です。
Q5. 千代の富士と貴闘力の取組で決まったとったりは有名ですか?
A. はい。平成3年五月場所3日目、貴闘力が千代の富士をとったりで破った一番は、相撲史に残る取組として語られています。
この取組後、千代の富士は現役引退を表明しました。
ただし、とったりだけが引退の理由だったわけではありません。
それでも、大横綱の最後の黒星となった一番の決まり手が「とったり」だったことは、とても印象的です。
まとめ
とったりは、相手の腕を取ってひねり倒す、一瞬の判断が勝負を分ける決まり手です。
また、逆とったりとの関係を知ると、腕を取った側と取られた側の攻防がより見えやすくなります。
特に宇良と霧島の一番のように、とったりを得意とする力士が逆に返される場面を見ると、この技がただ危険なだけではなく、駆け引きの中で成り立っていることがわかります。
次に相撲中継でとったりや逆とったりが出たときは、腕を取った瞬間だけでなく、そこから相手の体勢がどう崩れたのかにも注目してみてください。
うむ。とったりは、ただ腕を取るだけの技ではない。
相手の動きを読む目、技を仕掛ける一瞬の判断、そして勝負に踏み込む覚悟が問われる決まり手である。
危険と隣り合わせの技だからこそ、そこに見える力士の駆け引きにも目を向けてみるとよい。
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