力士の生活

力士は毎日髪を洗わないって本当?元力士がまげのお手入れ事情を解説

最近、髪質や毛量が気になってオイルヘアパックを始めました。
元力士のしんざぶろうです。こんにちは!

一般の人にとって、毎日髪を洗うのは当たり前の習慣ですよね。でも「力士は毎日髪を洗わない」という話を聞いたことはあるでしょうか?

この理由として、髷(まげ)を結っているため、髪を洗えないのでは?と思う方が多いのかもしれません。実際、髪を洗わない日が続くことはありますが、理由はそれだけでありません。そこには様々な理由や事情が存在します。

今回の記事では、力士がどのように髪を手入れしているのか、なぜ髪を洗わないのかについて詳しく解説していきます。また、床山との関わりや、髷を結っていない新弟子たちが、どのようにしているかなど、僕自身の体験も交えてお話しします。

ぜひ最後までお付き合いくださいね!

管理人の後輩
元力士 まさる
管理人の後輩
元力士 まさる
引退したあとは気兼ねなく、
毎日、頭を洗えるのが嬉しかったなぁ
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毎日髪は洗わない?

では、さっそく結論から言いますと、「シャンプーを使って毎日髪を洗わない」が正解です。そもそも稽古で汗や砂が髪に付着するので、そのままにしておくわけにはいきません。そのため、お湯ですすいで汚れを落としますが、シャンプーは使わないということです。

では、なぜ毎日シャンプーで洗わないのか?一番の理由は、「鬢付け油(びんつけあぶら)」が落ちてしまうからです。もしシャンプーで完全に油を落としてしまうと、床山が髷を結う際、鬢付け油を大量に使うことになりますし、時間もかかってしまいます。油を落とした場合、一人あたり15分以上かかりますが、落とさなければ10分弱で終わります。

これが10人、20人となると相当な時間を要します。そして髷を結い終わらないと、その後の昼寝ができないんです。もっとも、昼寝も番付や兄弟子順なので、下っ端の力士たちは昼寝の時間が少ないんですけどね。

  • 毎日シャンプーはしませんが、髷は稽古で汗や砂で汚れるため、お湯で洗い流します。
  • シャンプーで油を落とすと、髷を結うのに時間とコストがかかる。

(現実的に毎日、全員の力士を対応することはできない)

シャンプーの頻度は?

兄弟子や番付上位の力士は、2~3日ごとにシャンプーをしていた印象があります。一方、番付が下の者は、1週間に1~2回程度しかシャンプーをしていませんでした。

髪が長く、鬢付け油や砂、汗などの汚れが多い力士にとって、シャンプーには時間がかかります。そのため、後片付けなどの雑務が多い下位の力士は、油や汚れを落とす時間を節約し、素早くお風呂や食事を終えなければならないことも、シャンプーの頻度が少ない理由のひとつです。

髪の状態はどうだった?

力士の髪は、ほぼ常に鬢付け油が付いた状態で、お風呂上がりもドライヤーで乾かすことはありません。髪を乾かしてしまうと、髷を結う際に櫛が通りにくくなるためです。

そのため、タオルで軽く拭く程度で、頭皮は蒸れがちになり、抜け毛も増えてしまいます。お風呂掃除の際には大量の抜け毛が残っていて、それを見ると少し悲しくなることもありました。

「髪が薄くなったら髷は結えなくならないの?」って疑問に思った方は、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

男性頭皮の画像
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お風呂で髪をほどいたらどうしてるの?

頭を洗うときは、当然ながら髷をほどきます。とはいえ、髪を束ねずにそのままにしておくわけにはいかないので、稽古中と同じように、さらしの紐でしっかりと縛ります。

手順としては、自分でくしを使いながら髪をすすぎ、簡易的に髷を作って(髪を束ねて)、さらしで作った紐で他の力士に縛ってもらいます。この際、髪の水気を取るために絞るようにして髪を束ねるのがコツです。

相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
女性のポニーテールを頭のてっぺんに作るイメージかな??
管理人の後輩
元力士 まさる
管理人の後輩
元力士 まさる
ポニーテールは作ったことないけど、
たぶん近いんじゃないかな。

稽古が休みの場合は?

稽古が休みの日は、床山も休みなので基本的には髷を結うことはありません。しかし、場所後の1週間の休み中は、さすがに長期間になり頭がかゆくて不衛生になります。床山にお願いすればやってくれるのでしょうけど、兄弟子(先輩)となると頼めなかったですね。
(僕が所属していた部屋の話しなので、他の部屋は結ってくれているのかも・・・)

対策としては、力士同士で髷を結い直すことです。なぜ力士が髷を結えるのかというと、実は場所中、床山は大銀杏を結うなどでとても忙しく、全員に対応できない場合があります。

そんな時は、力士同士で髷を結い直すしかないので、必要に迫られて憶えるんです。もちろん、床山ほど上手にはできませんが、僕も髷を結っていたので結構うまくできるんですよ。

ちなみに、相撲界は厳しいというイメージが先行して、毎日稽古をしていると思っている方も多いのではないでしょうか。入門するまでは、僕もその中の一人でした。
力士の休みがいつあるのかなど、下記の記事でくわしく解説していますので、気になる方はぜひ読んでみてください。

時計とカレンダーの画像
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相撲観戦大好き
さくら
相撲観戦大好き
さくら
力士でも髷を結うことがあるんだね。
ところで、さっきの鬢付け油ってなんだろう?
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髷に付けている油はなに?

まげに付けている油は「鬢付け油」(びんつけあぶら)と言って、もくろう(木蝋)、なたね油、ひまし油、数種類の香料などを材料につくられています

そして、力士に使用されている油はオーミすき油」といい、製造しているのは「東京・江戸川区にある島田商店」1軒のみです。

僕の新弟子時代は、両国で当時(1996年ごろ)1缶「1000円」で購入していましたが、現在は値上がりしているようですね。

鬢付け油の役割

1. 髷を形よくまとめるため

鬢付け油は、髪に適度な滑りと艶を与え、髷を形よく整えるために欠かせません。髷を結う際、髪が乱れずにしっかりまとまるようにする役割を果たします。

2. 髪を保護するため

稽古や取り組みで、力士の髪は引っ張られたり、擦れたりすることが多く、髪はダメージを受けやすい状態にあります。鬢付け油は髪をコーティングし、髪の摩耗や切れ毛を防ぎます。

3. 髷を長時間保つため

力士は一日中、髷を結ったまま過ごします。鬢付け油を使うことで、髷が崩れにくくなり、しっかりとした形を長時間キープすることができます。髷が崩れてしまうと、再び結い直さなければならないため、油はその手間を減らす役割も担っています。

4. 伝統的な美しさの象徴

鬢付け油は、髪に光沢を与え、髷を美しく見せる効果もあります。相撲は伝統を重んじるスポーツであり、髷の美しさも重要な要素です。

そもそも床山って?

床山は、力士の髷(まげ)を結うことが主な仕事です。そして、それぞれ相撲部屋に所属し、力士たちと同じように寝泊りします。僕がいた部屋にも1名の床山さんがいました。

しかし、床山は必ず各部屋にいるわけではなく、床山がいない部屋は同じ一門の床山を借りて髷を結っています。

鬢付け油は誰が購入しているの?

他の部屋はどうなのかわかりませんが、僕が所属していた部屋では、場所後に手当をいただいた際に「油代」として床山に5千円を支払っていました。そのお金で床山が鬢付け油を注文し、管理していました。

ただ、関取たちがどれくらいの油代を負担しているのか、部屋自体が負担している部分があるのかなど、詳しい事情まではわかりません。

新弟子たちはどうしている?

髷を結っていない新弟子たちに関しては、両国に行って自分で鬢付け油を購入しなければなりません。髪の長さにもよりますが、次の給金までの2カ月分の鬢付け油を購入するとなると、だいたい10缶くらい必要になります。

ですので、髷を結えるようになって「油代」を支払う方が金銭的には楽になりますね。
当時1缶「1000円」でしたが、1万円の出費はきつかった(-_-;)

新弟子時代、序の口で1場所77000円の支給だったので、そこから1万円の出費があったということです。力士の収入について、もっとくわしく解説した記事がありますので、気になる方は、ぜひ読んでみてください。

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でも髷を結っていないので、毎日シャンプーができるのは嬉しいところでした。床山の前に並ばなくても済むのもメリットといえます。ただ、兄弟子が昼寝できない状況の中で、自分が寝るわけにはいかないのが辛いところですけどね。

新弟子時代のエピソード

新弟子は、髪が肩に届くくらいまで伸びれば髷を結うことができますが、それまでは自分で鬢付け油をつけてオールバックにして過ごします。

とはいえ、鬢付け油は金銭的負担が大きいため、いかに無駄にしないかを工夫しなければなりません。僕は一度、いつもより少なめの油で、ケチったことがありました。

その結果、稽古で胸を出してくれた兄弟子の胸が髪で擦れてしまい、血がにじんでしまったことがあります。もちろん、兄弟子に怒られましたが、自分でも申し訳なかった記憶が残っています。

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本場所の取組後はどうしている?

本場所の取り組み後は、当然汗や砂が付くため、お風呂が用意されています。湯船もありますが、大抵の場合は汗を流す程度です。

ただ、取り組み中に頭から土俵に落ちてしまうこともあります。その際には、髷に大量の砂がついてしまい、洗髪しなければ髷が結えない状態になります。こういった場合は、場所のお風呂でもさすがに洗髪します。

この場合、通常より多くの鬢付け油が必要になりますが、場所の支度部屋にいる床山は自分が所属する部屋の床山とは限りません。そのため、普段の「油代」が適用されず、鬢付け油を持参して髷結いをお願いする必要があります。逆に、髪を洗っていない場合は、そのまま髷を整えてもらうことができます。

力士には、日本の文化や伝統を継承していく重要な役割があります。そのため、礼節や身なりについても厳しく指導されます。

特に、本場所への移動時や公共機関を利用する際など、公の場に出る場合には、身なりを整えることが求められます。もちろん、髷(まげ)もその一環として、きちんと整えておく必要があるのです。

ちなみに東・西の支度部屋に、それぞれお風呂が用意されています。

管理人の後輩
元力士 まさる
管理人の後輩
元力士 まさる
僕はたびたび「だらしがない」と、
身なりについて親方に注意されてたなぁ

まとめ

鬢付け油という言葉は聞いたことがあっても、「オーミすき油」という名前を初めて耳にした方も多いのではないでしょうか?そして、あのすき油のおかげで、お相撲さん特有の香りが有名なんですよね。特に力士の街、両国駅周辺では、あの甘い香りが漂っていることで知られています。

僕も入門したばかりの頃は、部屋中に広がるあの甘い香りを「いい香りだなぁ」と思っていました。でも、時間が経つにつれて、次第にその香りを感じなくなってしまうんです。嗅覚が慣れてしまうんでしょうね。そうなると、意図して油に鼻を近づけて嗅がないと、ほとんど気づかなくなってしまいます。

あの甘い香りを久しぶりに嗅いでみたいなぁ、と懐かしさを胸に、今回の記事は締めくくりたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。

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