相撲界の挨拶が苦手で苦労しました。
元力士のしんざぶろうです。こんにちは!
「ごっちゃんです」という言葉、相撲ファンなら一度は耳にしたことがあるでしょう。この言葉は、力士が日常的に使う挨拶の一つで、感謝の気持ちを表しています。しかし、その具体的な使われ方についてはあまり知られていないかもしれません。
今回の記事では、「ごっちゃんです」や「ちゃし」など、相撲界ならではの独特な言葉、その背景について詳しく解説していきます。さらに、「給金を直しました」や「コンパチ」といった、普段あまり耳にしない相撲界ならではの言葉や習わしにも触れていきますので、ぜひ最後までお付き合いくださいね。
さくら
私は初めて聞いたから気になるわね。
「ごっちゃんです」の意味
「ごっちゃんです」は「ごっつぁんです」とも表記されますね。由来としては「ごちそうさま」が転じて「ごっちゃんです」となった、という説が有力のようです。
そして、この言葉の意味は、基本的には「ありがとう」という意味になりますが、使う場面で微妙に意味が変化するので下記の表にまとめました。
言葉 | 通常 | 食事・風呂 |
---|---|---|
ごっちゃんです | ありがとうございます。 | いただきます。 |
ごっちゃんでした | ありがとうございました。 | ごちそうさまでした。 |
お先にごっちゃんです (でした) |
なし | お先にいただいています。 (いただきました) |
「お先にごっちゃんでした」という挨拶は、兄弟子や番付が上の力士一人ひとりに必ず行います。基本的に、お風呂や食事は目上の力士が優先されますが、番付下位の力士には、入浴の手伝いや食事の後片付けなどの雑務があるため、先に入浴や食事を済ませることがあり、そういった場面で使われる挨拶です。
あと、上記以外の場面でも使うことが多いのが稽古中です。しかし、「ありがとう」という意味なので、何かしてもらったら感謝を伝えるのは相撲界に限った話しではないですけどね。
- ぶつかり稽古で胸を出してくれる力士に対して
- 三番稽古の相手に対して
- 相撲に関してアドバイスを受けた、など
「ちゃし」とは?
「ちゃし」という言葉は、ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』で主人公が使っていることで話題になっているようですね。そして、ネットで「ちゃし」は相撲用語で「ごっちゃんです」の原型である、という記事を見かけましたが、実は全くの逆です。
「ごっちゃんです」が原型となり、そこから略されて「ちゃし」となっています。相撲界では、「ごっちゃんです」というお礼や、目上の人に対する礼儀を示す場面が非常に多いです。毎日頻繁に使う言葉ですから、自然と「ごっちゃんです」が短縮されて「ちゃんす」や「ちゃんし」、「ちゃし」となってしまうことがあります。
しかし、この言葉は「感謝」を表す大切な挨拶です。それを略すことは、礼節を重んじる相撲界では当然ながら許されません。僕も親方(師匠)や関取衆に「ごっちゃんです」と略さず言うように、何度か注意された経験があります。
しかし、どの世界でも言葉の乱れはありますよね。たとえば「ことよろ」や「あけおめ」のような略語がその例です。しかし、こうした略された言葉を使うと、相手に軽んじられたと感じさせてしまうことも事実です。
やはり、感謝を伝える言葉は、きちんと言葉を略さずに使うことが大切だと感じます。
元力士 まさる
さくら
たしかに不愉快ね!!
その他の独特な言葉遣いや習慣について
ここでは「ごっちゃんです」以外の挨拶についてご紹介いたします。まずは、下記の一覧表をご覧ください。
言葉 | 意味 | 場面 |
---|---|---|
おつかれさんでございます | おつかれさまです | ・外出時に目上の方に会った場合 ・目上の者が仕事(本場所、巡業など)から帰ってきた場合 |
おかげさまで給金を直すことができました | あなたのおかげで、勝ち越すことができました。 | 部屋の親方、兄弟子たちへの報告。勝ち越した時点で行う。 |
おかげさまで出世することができました | あなたのおかげで、来場所から番付に載ることができます。 | ここでの出世は、番付外の新弟子が、「新序の口」として、来場所から番付に加わる状況を指す。(出世披露の後) |
おかげさまで髷を結うことができました | あなたのおかげで髷を結うことができました。 | 新弟子が初めて髷を結った時に、部屋の目上の人全員に挨拶する。 |
「給金を直す」とは?
力士には「持ち給金」という制度があります。
これは現役時代の戦績に応じて随時加算されていき、関取になると毎場所「報奨金」として支給されます。報奨金は、その場所時点での「持ち給金」に基づいて計算されて支給される仕組みです。
そして本題の「給金を直す」ですが、勝ち越すことで「持ち給金」が加算される仕組みになっているので、今までの給金が新たな額に書き直されることを指します。つまり、「給金を直す」とは、昇給するという意味になります。
上記表の「おかげさまで給金を直すことができました。」は、昇給できたのは日々稽古をつけてくれている目上の方々のおかげです、という感謝の気持ちが込められています。
「報奨金」は幕下以下には支給されませんが、「持ち給金」は加算されていきます。そして、加算されることはあっても、減算されることはありません。
もう少し詳しく知りたい方は、こちらの記事でも「報奨金」について触れていますので、併せて読んでみてください。
出世披露について
新弟子が「番付」に載るためには、まず「前相撲」を行います。この前相撲の成績が、来場所の番付に反映され、初めて番付に載ることになります。
つまり、前相撲は新弟子同士の順位を決めるもので、その結果が来場所の番付に反映され、「新序ノ口」として、正式に順位がつけられるのです。(厳密にいうと、ケガなどで降格した力士も前相撲を取ることになる)
そして、番付外から番付に「しこ名」が載ることを「出世」と呼び、前相撲を終えた本場所の中日(8日目)に「出世披露」が行われます。(3月場所は日程が異なります)
そして、出世披露が終わると、館内で親方や相撲関係者に挨拶回りをするのですが、この時に使われる言葉が、上記表にある挨拶です。さらに、部屋に戻った後も親方や兄弟子などに一人ひとり同じように挨拶して回る習わしになっています。
- 前相撲と出世披露は同じ場所で行われる。
⇒〇前相撲:3日目
〇出世披露:8日目
*3月場所のみ新弟子が多いため、日程が変わる。 - 出世披露の後は、自分の部屋の関係者だけでなく、相撲界全体の親方衆に挨拶を行います。
- 番付にしこ名が載るのは、出世披露を終えた次の場所となる。
⇒例:3月場所 出世披露
5月場所 番付発表で初めて番付にしこ名が載る。
髷(まげ)が結えるようになると
「髷を結うことができました」と、挨拶をすると、「コンパチ」が行われるのはファンの中ではけっこう有名ですよね?僕の時も実際にコンパチが行われて、親方や関取衆からご祝儀をいただくことができました。が、質の悪い兄弟子からはコンパチだけされて、ご祝儀をもらえない、ということも・・・(-_-;)
いわゆる「デコピン」です。
相撲界では初めて髷を結えるようになった新弟子に対し、デコピンを行って「油代」という名目で、ご祝儀を渡す習わしがあります。
「油代」とは、力士の髷に使われる「鬢付け油」(びんつけあぶら)のことを指すのですが、くわしく知りたい方はこちらの記事に詳しく説明していますので、ぜひ読んでみてください。
力士以外の相撲関係者のあいさつは?
相撲界には、力士だけでなく「行事」「呼出」「床山」など、さまざまな人々が相撲を支える役割を担っています。それぞれが専門の仕事を持ち、相撲界で重要な役割を果たしていますが、力士特有の挨拶である「ごっちゃんです」など、今回紹介したあいさつは、彼らには使われません。*「おつかれさんでございます」は使われる。
これらの言葉は、力士が感謝や礼儀を示すために使われるもので「相撲文化を後世に伝える」役割を担う力士の立場や習慣に深く根付いています。そのため、相撲のOBである親方たちも、現役を引退すると「ごっちゃんです」という挨拶は使わなくなるのです。
今回の記事で紹介した挨拶は、力士特有のもので、基本的に力士だけが使用します。つまり、引退した力士(親方)も、一般的な言葉を使うようになります。
さくら
ただ強ければ良いというものでもないのね。
まとめ
力士の挨拶について詳しく見てきましたが、社会人になって改めて、挨拶の大切さを実感しています。現役時代、師匠や先輩から厳しく教わった礼儀は、相手への敬意だけでなく、自分自身を律するための大切なものだと気づきました。
相撲で培ったこの考え方は、社会に出てからも、様々な場面で役立っており、相撲も一般社会も関係なく共通して大切な要素ですよね。
次に相撲を観るときは、そんな力士たちの挨拶や所作にも注目してみるのも楽しいかもしれません。相撲の伝統や文化の奥深さが、より身近に感じられますよ。
それでは、今回も最後までありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。