僕が新弟子検査を受けたのは約25年前。大阪場所ということもありましたが、100人を超える受験者がいました。当時、序ノ口は50枚~70枚目くらいで推移していたので、現在の20枚目前後と比べると、力士志願者がかなり減っていることがわかります。
今こうしてブログを書いていると、当時のことを思い出し、仲の良かった同期生が今どうしているかなぁって感慨深くなりました。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
力士を目指すなら、避けて通れないのが「新弟子検査」です。これは日本相撲協会が実施する公式試験で、体格基準や健康状態をクリアすることで、正式な力士として認められます。
しかし、新弟子検査を受けるまでの間にも、相撲部屋での生活が始まっていたり、さまざまな準備が必要だったりと、力士になるにはいくつかのステップを踏む必要があります。
そこで今回は、新弟子検査の内容や合格後の流れについて、僕の実体験も交えながら詳しく解説していきます!
ぜひ最後までお付き合いくださいね。
新弟子検査かぁ。ここから未来の横綱や大関が誕生するかもしれないと思うと、ワクワクするわ! 若い力士たちの成長を見守るのも相撲の醍醐味よね♪
- 新弟子検査の合格基準と新弟子運動能力検査の仕組み
- 前相撲のルールと出世力士の序列が決まる仕組み
- 新序出世披露の流れと儀式の意味
- 付け出し制度の概要と適用条件
- 相撲教習所での学び
新弟子検査とは?

大相撲の力士を目指すなら、まず最初にクリアしなければならないのが「新弟子検査」です。これは、日本相撲協会が実施する公式試験で、体格基準や健康診断をクリアすることで、正式な力士として認められます。
- 合格すると日本相撲協会に登録され、前相撲に出場する資格を得て、本格的な力士生活が始まります。
合格するまでは「見習」や「研修生」として扱われ、正式な力士とは区別されます。相撲部屋での生活は始まっていますが、この段階ではまだ公式な土俵に上がることはできません。
*以下は日本相撲協会の公式動画で、新弟子検査の様子が公開されています。実際の雰囲気を知るためにも、ぜひご覧ください。
【令和5年5月場所(2023年)】新弟子検査の動画
この動画には、2025年2月現在、大関として活躍する「大の里関」が登場しています。当時はまだ「中村泰輝さん(なかむら だいき)」として新弟子検査を受けていました。
そこからわずか2場所で十両昇進を果たし、9場所で大関へと駆け上がるという驚異的なスピード出世を達成。2024年九州場所では大関として土俵に上がるまでに成長しました。未来の横綱とも期待される力士だけに、この映像はとても貴重ですね。
大の里関の詳しいプロフィールは、以下の公式ページでご確認ください。
⇒相撲協会HP-大の里プロフィール
そして、新弟子検査を受けるまでの間は、相撲部屋での雑用をこなしながら、四股・てっぽう・すり足などの基礎的な稽古を積み、力士としての基本を学びます。 相撲部屋の生活に慣れ、土俵に立つための準備を整える期間とも言えるでしょう。
また、新弟子検査には身体測定だけでなく、健康診断や内臓検査も含まれ、健康面のチェックが厳しく行われます。 それだけ、大相撲は激しい競技であり、力士には並外れた身体的強さが求められるということです。万が一の事態を防ぐためにも、たとえ相撲の実力があっても、健康状態に問題があれば合格できません。
そのため、新弟子検査は単なる形式的な試験ではなく、力士としての土台を築くための重要な関門と言えるでしょう。ここを突破できるかどうかが、今後の角界での活躍を左右するのです。
*しんざぶろうの新弟子検査
僕が新弟子検査を受けたのは約25年前。当時の基準は今よりも厳しく、身長173cm以上、体重75kg以上が求められていました。
身長も体重も基準をクリアしていましたが、検査前は相撲部屋で寝泊まりしながら準備する生活。慣れない環境のせいか、体重が減ってしまい、身長も174cmとギリギリ。そんな状況を見た師匠からは「とにかくたくさん食べて、ひたすら寝てろ」と指導されました。
検査の1週間前からこのルーティンが始まり、ほとんど寝てばかりの日々。あまりにも寝すぎて、腰が痛くなったほどです。
結果として体重はほとんど増えず76kgのままでしたが、身長は176cmに伸びており、2cmもアップしていたのには驚きました。 寝る時間が長いと、一時的にでも身長が変化するものなんだなと実感した瞬間です。
こうして、無事に新弟子検査に合格することができました。振り返ってみると、寝て食べることも立派な準備のひとつだったんだなと、今さらながら思います。
なお、2025年の最新の新弟子検査について、受検者の情報を含めた詳しい記事も公開しています。今年の合格者や注目力士の経歴、今後の展望などを徹底解説。未来の大相撲を担う若手力士たちの挑戦を、ぜひチェックしてみてください!

新弟子検査の内容
受験者は体格や健康状態をチェックされ、これらの基準をクリアすることで正式に力士として認められます。
近年は少子化の影響もあり、力士志願者が減少傾向にあることから、新弟子検査の基準も変化してきました。以前は身長・体重の基準が今よりも厳しく設定されていましたが、この後詳しく解説するように、現在は特例措置や「新弟子運動能力検査」の導入によって、より多くの志願者がチャンスを得られるようになっています。
ここでは、新弟子検査の具体的な受験資格について解説します。
受験資格
①年齢制限
- 一般の受験者 → 満23歳未満
- 日本相撲協会が指定するアマチュア大会で一定の成績を残した者
- 高校以上の全国大会出場経験者
- 「新弟子運動能力検査」に合格した者
*上記のいずれかを満たした場合、25歳未満であれば受験が可能になります。
*新弟子運動能力検査とは
身長・体重や年齢の基準を満たさない志願者のための試験です。背筋力や握力、反復横跳びなどの体力測定を行い、一定の基準をクリアすれば、新弟子検査の受験資格を得られます。
この制度は2001年に導入されましたが、2012年に一度廃止。その後、2023年に復活し、2024年から現在の名称となりました。開催は東京場所(1月・5月・9月場所)初日の数日前となっています。
- 背筋力
- 握力
- 反復横跳び
- ハンドボール投げ
- 上体起こし
- 立ち幅跳び
- 50m走
なお、この制度が復活してから最初の合格者について、産経新聞が以下のように報じています。
体格基準を撤廃した大相撲の新弟子二次検査が19日、東京・両国国技館で初めて実施された。身長159・5センチの元村康誠(15)=佐賀県出身、佐渡ケ嶽部屋=が受検し、背筋や反復横跳び、ハンドボール投げなど7項目の運動能力テストで基準点を満たして合格した。5月に内臓検査などを受け、正式に合否が決まる。
引用元:産経新聞_二次検査の合格
②学歴
- 義務教育を修了していること(中学卒業見込み/中学校卒業以上)
卒業式はどうする?
中学卒業後に入門する力士の多くは、大阪場所で初土俵を踏みます。一方、卒業式は3月上旬から中旬にかけて行われるのが一般的です。そして、2025年の大阪場所も3月9日(日)に初日を迎えるため、卒業式と重なってしまいます。
そのため、大阪場所で初土俵を踏む力士志願者のほとんどは、卒業式には出席せず、そのまま相撲部屋での生活をスタートさせます。
こうした事情を考慮し、学校によっては壮行会を開く場合があるようです。実際に、2024年には真庭市の落合中学校で、卒業式を兼ねた壮行会が行われました。
NHKの記事では、以下のように報じています。
『27日は、学校の体育館に全校生徒およそ300人が集まり、卒業式を兼ねた壮行会が開かれました。来月(3月)2日に新弟子検査を受け、大阪で開かれる春場所で初土俵を踏む予定です。』
引用元:NHKweb_壮行会
僕も大阪場所が初土俵だったけど、2月の上旬には相撲部屋に引っ越していたなぁ。その頃は、期待と不安、それに同級生と離れる寂しさもあって、いろんな感情が入り混じっていたよ。
上記の受験資格を満たしている者は、新弟子検査を受けることができます。
そして、新弟子検査では「体格検査」と「健康診断」が実施され、両方の基準をクリアすれば、日本相撲協会に力士として正式に登録されます。
体格検査
- 身長167cm以上
- 体重67kg以上
中学卒業見込者のみが対象(大阪場所に限り)
- 身長165cm以上
- 体重65kg以上
*基準を満たしていない場合(特例含む)でも、「新弟子運動能力検査」に合格すれば受験資格を得ることができます。
健康診断および内臓検査
体格検査をクリアした者は、日本相撲協会が指定する医師による健康診断や内臓検査を受けます。ここで問題がなければ新弟子検査に合格となり、その合否は本場所初日に発表されます。
合格者はその場所の前相撲に出場し、正式な力士としての第一歩を踏み出します。
- 医師による健康診断
- 心電図
- エコー検査など
*この検査内容は過去のもので、変更される可能性もあります。
新弟子検査不合格の場合
規定の年齢内であれば、来場所以降何度でも再受験が可能です。
※ ただし、25歳以上になると「新弟子運動能力検査」も適用外となり、新弟子検査を受けることができなくなります。
新弟子検査に人数の制限はないの?
新弟子検査には受検者数の上限はありません。
そのため、時代によって受検者数には大きな変動があります。
たとえば、僕が新弟子検査を受けた頃は120人近くが挑戦していました。しかし、近年は少子化や相撲人気の変化なども影響し、力士志願者の減少が続いています。現在は一番志願者が多い3月の大阪場所でも30名程度にとどまり、かつての賑わいとは大きく異なります。
こうした状況を受け、日本相撲協会は体格基準の緩和や「新弟子運動能力検査」の再開など、より多くの志願者が力士になれるように門戸を広げる取り組みを進めています。特に、体格基準の引き下げや、従来の基準を満たさない志願者にもチャンスを与える運動能力検査の実施は、角界にとって大きな変化といえるでしょう。
一方で、外国人力士には一定の人数制限が設けられています。 かつては制限がありませんでしたが、現在は1部屋につき外国人力士は1人までと定められています。この制限は、日本相撲の伝統を守るために導入されましたが、外国人力士の活躍が目立つ中で、今後の議論の対象となる可能性もあるでしょう。
外国人の制限について、もっと詳しく
かつて、外国人力士の受け入れには人数制限がなく、多くの海外出身者が角界入りしました。しかし、外国人力士による不祥事や文化の違いから、1980年代後半から制限を設ける動きが出てきます。
1992年には外国人力士を総数40人以内、1部屋2人までとするルールが適用されましたが、2002年には1部屋1人までという新たな制限が設けられました。当時、相撲部屋は54部屋あったため、結果的に緩和となり外国人力士の総数は最大54人までとなりました。
しかし、この時点での制限は「外国籍の力士」に対するもので、帰化した力士には適用されませんでした。 そのため、一部の相撲部屋では外国人力士を受け入れた後、日本国籍を取得させることで、実質的に制限を回避する動きが見られたのです。
そこで、2010年には「帰化者も含めて1部屋1人まで」というルールが追加され、この抜け道がなくなりました。 ただし、すでに複数の外国人力士が所属していた部屋や、消滅した部屋からの移籍者については例外が認められています。
新弟子検査はいつ?スケジュールをご紹介
大相撲の新弟子検査は年に6回、本場所の直前に実施されます。ただし、本場所のように「奇数月の第2日曜日」といった固定されたルールはなく、開催日は場所ごとに異なります。
参考として、直近2回の開催日を紹介します。日本相撲協会の公式X(旧Twitter)の投稿を基にしているため、最新のスケジュールを確認する際の参考にしてください。
2025年初場所の新弟子検査
- 開催日:2025年1月6日(月)
- 本場所初日:2025年1月12日(日)
- 開催間隔:本場所初日の6日前に実施
<新弟子検査>
一月場所の新弟子検査が行われ、6名が受検しました。
一月場所初日に合格者が発表されます。齋藤忠剛(伊勢ノ海)は三段目最下位格附出となります。#sumo #相撲 #一月場所 #初場所 pic.twitter.com/kxc3ia2SsP
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) January 6, 2025
2024年九州場所の新弟子検査
- 開催日:2024年11月1日(金)
- 本場所初日:2024年11月10日(日)
- 開催間隔:本場所初日の9日前に実施
<大相撲九州場所>
本日、九州場所の新弟子検査が行われ、9名が受検しました。
九州場所初日に合格者が発表されます。1枚目より、アイルア・ダニエル(武蔵川)、セルジブデー・ルブサンゴンボ(錣山)、岡田綾太朗(高田川)。
写真提供:ベースボール・マガジン社#sumo #相撲 #九州場所 pic.twitter.com/ZJPFUAzzZi— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) November 1, 2024
このように、新弟子検査の開催間隔は本場所によって異なります。 2025年の初場所では初日の6日前に検査が行われたのに対し、2024年の九州場所では9日前に実施されました。この違いは、本場所の準備期間や相撲協会のスケジュール によるものと考えられます。
なお、年間6回開催される本場所について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 開催地や会場の特徴、本場所の歴史などを詳しく解説しています。

新弟子検査にまつわるエピソード【舞の海】
前述のとおり、かつての新弟子検査は現在よりも基準が厳しく、身長173cm以上、体重75kg以上が求められていました。そのため、体格に恵まれない者にとっては大きな壁となっていました。
そんな厳しい基準の中で話題となったのが、「平成の牛若丸」と呼ばれた「舞の海秀平さん」です。(以下敬称略)
- 本名:長尾 秀平(ながおしゅうへい)
- 生年月日:1968年2月17日(57歳/2025年現在)
- 身長:171cm
- 体重:101kg
- 最高位:東小結
- 生涯戦績:385勝418敗27休(出場58場所)
- 初土俵:1990年5月場所(幕下付出:60枚目)
- 引退:1999年11月場所
彼は新弟子検査の基準に満たない身長169cmでしたが、相撲への強い情熱を捨てきれず、ある大胆な手段を講じました。
頭にシリコンを埋めて合格
舞の海は日本大学卒業後、大相撲入りを志しました。しかし、当時の新弟子検査の基準を満たしていなかったため、一度不合格となります。
そこで彼は、医師の協力を得て頭にシリコンを埋め込み、身長を一時的に伸ばすという手術を受けました。この手段により、検査時の身長は173cmを超え、見事に新弟子検査を突破したのです。
このエピソードは相撲界でも話題となり、「どうしても相撲を取りたい」という彼の執念が評価されました。一方で、この手法が広く知られたことに加え、健康への影響も懸念されたため、相撲協会は1994年9月場所から「人為的な方法で身長を伸ばすことを禁止する」との通達を出しました。
力士としての活躍
新弟子検査に合格した舞の海は、幕下付出60枚目からスタートしました。十両昇進時には「舞の海」という四股名を名乗り、独自の技術を駆使して活躍。最高位は小結まで昇進し、多くの強豪力士と名勝負を繰り広げました。
「技のデパート」とも呼ばれるほど多彩な技を使い、小兵ながら大型力士を次々と破る姿は、多くの相撲ファンの記憶に残っています。舞の海のエピソードは、角界入りを夢見る者にとって、強い意志と工夫が道を切り開くことを示した象徴的な出来事といえるでしょう。
相撲部屋入門から土俵に上がるまで
ここまで、新弟子検査について解説してきましたが、そもそも新弟子検査を受けるには、いくつかのステップを踏まなければなりません。
まずは、相撲部屋への入門手続きを経て、日本相撲協会の審査を受ける必要があります。
- 入門を希望する相撲部屋へ申し込む
⇒希望する相撲部屋の親方(師匠)を通じて「力士検査届」を協会に提出 - 必要書類の提出
⇒力士検査届に加えて以下の3点の書類を提出する
①親権者の承諾書
②戸籍謄本または抄本
③医師の健康診断書 - 新弟子検査へ
こうした手続きを経て相撲部屋に入門し、新弟子検査に合格すると、いよいよ土俵に立つ準備が始まります。
しかし、新弟子検査を通過したからといって、すぐに本場所で取組ができるわけではありません。まずは前相撲で実戦経験を積み、その後、新序出世披露を経て正式に番付に名前が掲載されます。
また、学生や実業団などで、一定の実績を残した力士には付出制度が適用される場合があり、前相撲を経ずに三段目や幕下からスタートすることができます。
このように、新弟子が本場所の土俵に上がるまでには、いくつかのステップがあります。次の章では、前相撲や新序出世披露、付出制度について解説していきます。
前相撲とは
新弟子検査を合格した新弟子たちは、正式な番付に名前が載る前に「前相撲」に出場する必要があります。この前相撲が、いわば「初土俵」となります。
前相撲は本場所3日目(大阪場所は2日目)から行われ、序ノ口の取組前に実施されます。試合形式は通常1日1番で、3勝(大阪場所は2勝)した者から勝ち抜けていく仕組みです。先に勝ち抜けた者が翌場所の番付で上位となり、出世が早いほど序ノ口での序列が高くなります。
出世とは
前相撲に出場した力士が、翌場所から番付に四股名を載せてもらえることを「出世」と呼びます。かつては1勝しなければ出世できませんでしたが、1994年3月場所からは1勝もできなくても、一番でも前相撲を取れば出世扱いとなるように制度が変更されました。ただし、前相撲に一度も出場しなければ出世は認められません。
また、入門者が多い場所(特に大阪場所)では、「一番出世」「二番出世」「三番出世」(人数によっては三番出世がないこともある)という呼び名が使われます。これは、先に2勝した力士から順に称されるものです。
ちなみに、僕はきちんと2勝して「三番出世」を果たしました。自分の四股名が初めて番付に載ったときは、やっぱり嬉しかったですね。
この前相撲は、新弟子だけが取るものではありません。前述のとおり、前相撲は番付に載るための序列を決める場でもあります。
そのため、病気やけがで長期間休場し、番付が下がって「番付外」となった力士も、再び番付に載るために前相撲を取る必要があります。
新序出世披露
新弟子検査に合格し、前相撲を終えた力士たちは、本場所中に「新序出世披露」と呼ばれる儀式を受けます。
これは、正式に番付に名前が載る力士として認められたことを観客の前で披露する、大切な場面です。いわば、力士人生の第一歩を踏み出す瞬間ともいえるでしょう。
新序出世披露はいつ行われる?
新序出世披露は、三段目の取り組みの途中で行われます。新弟子の人数によって実施回数が異なります。
3月場所(春場所)入門者が多いため3回実施
- 5日目:(一番出世)
- 9日目:(二番出世)
- 12日目:(三番出世)
- その他の場所:新弟子が少ないため8日目に1回のみ
特に春場所は新弟子の人数が多く、勝ち抜けた順に「一番出世」「二番出世」「三番出世」と称され、披露も複数回に分けて行われます。ただし、場合によっては三番出世が行われないこともあります。
新序出世披露の流れ
新序出世披露は、土俵を清めた後に行われます。具体的な流れは以下のとおりです。
1.出世力士の登場
新序出世力士たちは、師匠や部屋の関取の化粧まわしを借りて土俵に上がります。
その後、場内アナウンスにより一人ひとり所属部屋・四股名・出身地が読み上げられます。
2.口上の宣言
呼出が柝(き)を打った後、幕下格以下の行司が厳かに口上を述べます。
「これに控えおきます力士儀にござります…」という伝統的な口調で、正式に番付に名を連ねることが宣言されます。
3.四方への礼
出世力士たちは東西南北に向かって礼をし、儀式を終えます。
僕の新序出世披露では、師匠から化粧まわしを借りて土俵に上がりました。初めて締める化粧まわしのずっしりとした重みが、何とも言えない特別な感覚でした。
儀式では、出世力士が整列し、一人ずつ名前が呼び上げられます。その際、出身地や所属部屋、四股名も読み上げられるのですが、僕のときは人数が多く、三番出世だけで30人近くいたと思います。
さらに、化粧まわしの重さに加え、蹲踞(そんきょ)と呼ばれるしゃがんだ姿勢を長時間維持するのは、新弟子にとってかなりの試練です。兄弟子からは「絶対に土俵に手をついたり、尻もちをつくんじゃないぞ」と念を押されていましたが、実際、姿勢を保ち続けるのは相当きつく、終わるころには脚がプルプル震えていました。
そして、儀式が終わった後は一人ひとり記念写真を撮ってもらいました。その写真は今でも実家の居間に飾られています。あのときの感動と誇らしさは、今でも鮮明に覚えています。
ちなみに、この後は相撲協会の各部署にあいさつ回りをするのですが、相撲界には独特の挨拶や習慣があります。そうした相撲界ならではの礼儀作法については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひチェックしてみてください。

また、新序出世披露の様子は、日本相撲協会の公式X(旧Twitter)でも紹介されています。以下の投稿では、実際に土俵上で披露された力士たちの姿を見ることができます。
<八日目の様子>
新序出世披露が行われました。
三月場所より番付にしこ名が掲載されます。前列右より
天狼星(錣山)、砂坂(高砂)、光武蔵(武蔵川)
後列右より
青木(伊勢ヶ濱)、内海(武蔵川)、安氣乃山(安治川)、朝河隅(高砂)#sumo #相撲 #一月場所 #初場所 pic.twitter.com/K0DXXABtH3— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) January 19, 2025
付出力士は出世披露はあるの?
一般的に出世披露と呼ばれていますが、正式には「新序出世披露」です。この「新序」とは、来場所から「新しく加わる序の口力士」という意味が含まれています。
よってこの儀式は、新弟子検査を通過し、序ノ口から土俵に上がる力士を対象に行われます。
一方、付出し力士は序ノ口を経ずに幕下や三段目からスタートするため、新序出世披露の対象にはなりません。ただし、付出し力士も番付に名前が載るのは初土俵の翌場所からとなります。
出世力士手打ち式と神送りの儀
千秋楽の表彰式がすべて終わると、土俵上で「出世力士手打ち式」と「神送りの儀」が行われます。これは、場所中に神が宿るとされる土俵の結界を解き、通常の状態に戻すための重要な儀式です。
まず、「出世力士手打ち式」では、新序出世披露を受けた力士たちが土俵に上がり、審判委員や若者頭とともに御神酒を捧げます。そして、場内に残った観客とともに三本締めを行い、場所の無事を感謝します。
その後、「神送りの儀」が行われます。これは、初日前日の「土俵祭」で迎えた神を送り出し、土俵を本来の姿に戻す儀式です。そして、この儀式の締めくくりとして、行司のうち最も格下の者が胴上げされます。これはかつて審判委員が務めていた役目でしたが、「神を迎える役割を担うのが行司なら、見送るのも行司がふさわしい」という考えから、現在の形に変わりました。
この儀式は通常、18時以降に行われるため、テレビ中継されることはほとんどありません。しかし、2020年(令和2年)3月の大阪場所は新型コロナウイルスの影響で無観客開催となり、取り組みや式典の進行が早まったため、特例としてテレビで放送されました。その貴重な映像を日本相撲協会が公開していますので、ぜひご覧ください。
付け出し制度について
大相撲には、学生やアマチュア相撲で優秀な成績を収めた力士が、一般の新弟子とは異なる待遇で相撲界入りできる「付け出し制度」があります。これは、実績のある選手に対して新弟子としての修行期間を省略し、すぐに本場所での取り組みを許可する特別な制度です。
付け出し力士の特徴
通常、新弟子は相撲部屋に入門し、新弟子検査を受けたのち、前相撲を経て番付に載る流れとなります。しかし、付け出し力士はこの流れを省略し、幕下または三段目の最下位格から相撲人生をスタートさせます。そのため、前相撲や新序出世披露も行われません。
ただし、付け出し力士の四股名は、初めて土俵に上がる場所の番付には記載されず、その場所の成績によって翌場所から正式に番付に載る仕組みになっています。
付け出し資格の条件
付け出しの資格を得るには、義務教育を修了(中学卒業見込みを含む)し、25歳未満であることが条件となります。また、以下のアマチュア相撲の主要大会で優秀な成績を収める必要があります。
大会 | 幕下最下位付け出し | 三段目最下位付け出し |
---|---|---|
国民スポーツ大会相撲競技 | 成年の部8強以上 | ・成年の部16強以上 ・少年の部4強以上 |
全日本相撲選手権大会 | 8強以上 | 16強以上 |
全国学生相撲選手権大会 | 8強以上 | 16強以上 |
全国高等学校相撲選手権大会 | なし | 個人無差別級4強以上 |
さらに、付け出し資格には取得から1年以内に申請しなければならないという期限が設けられています。なので、資格取得時点で24歳の場合は、25歳の誕生日を迎える直前の本場所の新弟子検査申込締切日までに申請する必要があります。
2025年2月現在、以下の2種類の付け出しがある。
- 幕下最下位付け出し
- 三段目最下位付け出し
なお、「三段目」や「幕下」といった地位についてピンとこない方もいるかもしれません。そんな方は、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてチェックしてみてください。

相撲教習所で相撲の基礎を学ぶ
新弟子検査を通過し、前相撲や出世披露を終えた力士たちは、力士としての第一歩を踏み出します。その過程で欠かせないのが 「相撲教習所」 です。ここでは、相撲の基本技術や礼儀作法を学び、土俵での実践に耐えられる体力・精神力を養います。
相撲教習所は、東京都の両国国技館の敷地内にあり、新弟子たちは半年間のカリキュラムを受講します。座学と実技の授業があり、前半は四股・鉄砲・すり足などの基礎訓練、後半は相撲の歴史・国語(書道)・相撲甚句・運動医学などの教養を学びます。特に、まだ日本語に不慣れな外国出身の力士たちにとっては、日本文化を学ぶ貴重な機会にもなっています。
なお、幕下付出の力士は一部の教習を免除されます。しかし、過去には関取昇進後もあえて最後まで教習を受ける力士もおり、相撲界の伝統や文化をしっかりと学ぶことの重要性がうかがえます。
相撲教習所は楽しかったなぁ。同期と気を使わず過ごせるのが何よりだったよ。部屋では緊張の連続だったけど、ここでは冗談を言い合える時間もあって、ホッとできたんだよね。
このように、相撲教習所で基礎を学び、卒業した後は、いよいよ本格的な力士生活が始まります。相撲教習所のカリキュラムや、授業の具体的な内容についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

まとめ
こうして、新弟子検査を通過し、前相撲や新序出世披露を経て、ようやく番付に名前が載るようになります。ここまでの道のりを振り返ると、力士として本場所の土俵に立つまでには、いくつもの試練を乗り越えなければならないことがよく分かります。
僕自身、新弟子検査を受けた頃は、期待と不安が入り混じった気持ちでした。でも、合格して番付に自分の四股名が載ったときの喜びは、今でも忘れられません。力士としての生活は決して楽なものではなかったですが、それ以上に学べることや得られる経験がたくさんありました。
そして、新弟子検査を突破した力士たちは、相撲教習所での修行を経て、本格的な力士生活をスタートさせます。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
また、次回の記事でお会いしましょう。