現役時代の休みにはゲームセンターに行くのが楽しみだった、元力士のしんざぶろうです。
こんにちは。
相撲といえば、横綱や大関といった名の知れた力士たちを思い浮かべる方が多いかもしれませんね。しかし、力士たちの世界はそれだけではありません。
実際には、多くの力士が幕下以下の階級で厳しい日常を送りながら、頂点を目指して努力しています。彼らの日常生活は、華やかな土俵の裏でどのように営まれているのでしょうか?
今回はそんな幕下以下の力士たちのリアルな日常を、僕の経験を交えて迫っていきます。
ぜひ最後までお付き合いくださいね。
元力士 まさる
力士の日常生活
そもそも幕下以下って、どんな階級があるのかわからないって方は、下記の記事を先に読んでいただくと理解が深まりますよ。
ではさっそく幕下以下力士の1日のスケジュールから紹介いたしますね。
前置きとしてお伝えしておきますが、この記事の内容はあくまで僕が体験したものに基づいています。そのため、部屋によっては大きく異なる場合がありますので、「こんな部屋もあるんだなぁ」という程度でご覧ください。
力士の一日のスケジュール
- 5:00:起床
- 5:30:稽古
- 11:00:風呂
- 12:00:昼ちゃんこ
- 14:00:昼寝・休憩
- 16:00:掃除・トレーニング
- 18:00:夜ちゃんこ
- 21:30:門限・消灯
起床 5:00
番付順で下位から稽古が始められます。
そのため一番下の力士が、稽古を始められるよう土俵の準備をしなければいけません。
そして自分の稽古時間に合わせて起床するので、おのずと起床する時間も番付順となります。といっても、関取でも7時前後には土俵におりてくるので、6時頃には全員起きることになります。
稽古 5:30~
・三番稽古
同じ力量の者同士が何番も繰り返し稽古を行う方式で、基本2人で行います。
端数がでる場合は3人で行う事もあります。
僕の部屋ではこの稽古を1組30分づつ、下の番付から行われていました。
自分が稽古する時間枠が決まっているという事です。
なので、寝坊しようものなら「稽古ができない!」
ということになりかねません。
そういった場合、お願いすれば(ほぼ断られますが・・・)その後の三番稽古に加われる可能性はあります。しかし、自分より番付上の力士との稽古になりますし、その相手が兄弟子ともなれば、稽古が厳しめになることは容易に想像できるでしょう。
幕下以下といえども、1人のプロのアスリートです。
強くなるために自分で自分を管理できなくて、出世なんかできるわけありません。
そして同部屋だとしても、関取の枠は決まっています。みんなライバルなんです。プロの自覚が低い人に、かまっている暇なんてありません。
まぁ寝坊の経験がある僕が言うのも何ですが・・・。
・申し合い稽古 10:00頃~
関取の三番稽古が終了すると「申し合い稽古」になります。
ここでも下から順に、各段ごとに行われます。
序ノ口⇒序二段⇒三段目⇒幕下⇒関取、の順です。
そのあとは親方の指示により、色々な組み合わせで「申し合い」を行って行きます。
・ぶつかり稽古 10:45頃~
最後は一人ずつ全員が「ぶつかり稽古」を行います。
稽古の締め的役割が「ぶつかり稽古」です。
ちなみに、三番稽古の最後にも行われます。
風呂 11:00頃~
番付上位から順に入浴していきます。
(親方が一番に入る事もあります。)
が、幕下以下からはそうもいきません。
関取から入浴するのは絶対ですが「付き人」や「ちゃんこ番」の仕事があり、番付上位の力士がそれらの仕事ですぐに入浴できない場合が多いのです。
その仕事が終わるのを待っていたら効率が悪すぎて、
昼寝や休憩時間がなくなってしまうでしょう。
なので、手の空いた者から入浴していきます。
しかし、あいさつだけはしっかり行わなければなりません。
「お先にごっちゃんでした!」と。
昼ちゃんこ 12:00頃~
お昼のちゃんこは基本的に「鍋」になります。
そこから「鍋=ちゃんこ」というイメージになったようですね。
そもそも、ちゃんことは「お相撲さんが作る料理」の事を指します。
ですので、カレーもハンバーグもお相撲さんが料理すれば「ちゃんこ」となるわけです。
昼寝・休憩 14:00頃~
昼食の片付けが終われば、そうじの時間まで自由な時間になります。
大体の力士が昼寝をする前に、自分のパンツや稽古タオルを洗濯します。
そうじ・トレーニング 16:00~
大部屋や稽古場、トイレやお風呂などを手分けして全員でそうじします。
そうじが終われば「ちゃんこ番」以外、夕食まで自由時間です。
トレーニングをしたり、本やテレビを観たりと各々の時間を過ごします。
が、新弟子たちはあまり自由ではないのが実情です。
すぐに食事ができるよう「テーブルや食器」などを準備したり、ちゃんこ番に買い忘れがあれば買い出しに走ったりと雑用が待っています。
これも修行という事ですね。
夜ちゃんこ 18:00~
夜に鍋は作りません。
炒め物や煮物など「ちゃんこ長」が、在庫をみながらメニューを考えます。
(おかみさんに相談しながら決める場合もあります)
足りないものは買い出しに行くのですが、あまり無駄遣いもできません。
というのも、各ちゃんこ番ごとに使える費用は決められているからです。
費用内でまかなえるよう考えながらメニューを決めないといけないので、ちゃんこ長はかなりのプレッシャーがありますね。
しかし、勉強になる事も多いと思います。
自由時間 19:30頃~
「夜ちゃんこ」の片付けが終われば自由時間です。
外出も門限内に帰ってこられれば自由にできます。
もちろん自由な時間なので遊んでいても良いのですが、強くなるためにトレーニングしても良いわけです。
門限・消灯 21:30
しっかりと休息することも強くなるためには必要です。
早めに休むことが最善と言えますが、この時間もある意味では自由な時間です。
そんな自由な時間になると暗闇の中「ちょんまげに懐中電灯をぶら下げた大男たち」が、思い思いに過ごし始めます。
夜食を食べて身体を大きくしようとする者、マンガ本を読む者、力士同士で会話を楽しむ者、と本当に色々です。
いま思い返すと、楽しい時間だったと懐かしくなりました。
休日はあるの?どのように過ごしている?
厳しいイメージのある相撲界ですが、休日はあります。僕も毎日厳しい稽古があると思っていたので、入門して意外に思いました。
ただ稽古が休みであるだけで、上述したちゃんこ番や掃除、門限などの制限が付きまといます。力士の生活そのものが修行みたいなところがあり、自由に羽を伸ばすなんてことはできません。
では、いったいいつ稽古が休みなのかを解説していきますね。
休日はいつ?
この話しをする前提情報として、相撲界での日程サイクルを説明させてください。なぜそんな説明が必要かといえば、どのサイクルにあるかで休みも変わってくるからです。
まず、本場所は2カ月に1度あり、このサイクルは本場所を基軸として回っています。つまり、「本場所がない月(偶数)」と「本場所がある月(奇数)」の2カ月が1セットで、年6回繰り返されます。
そして、本場所のある月は「本場所2週間前に番付発表」「本場所の開催期間の2週間」があり、この期間の4週間は休みはありません。
それを踏まえた上で下記にまとめました。
*このサイクルにはズレが生じることもあので、だいたいの目安としてご覧ください。
毎週日曜日が休み
*月末の日曜日は、本場所が近くなるので稽古となる場合もある
- 本場所2週間前は3日間稽古が休み
- 番付発表は、本場所13日前の月曜日
〇1日目:土俵崩し
⇒本場所を前に、土俵を崩して新しく作る準備をします。〇2日目:土俵築(どひょうつき)
⇒「呼出」の指示のもと、土俵を作ります。〇3日目:番付発表、土俵祭り
・番付発表⇒力士たちは、後援会の人達に番付を郵送する作業を行います。
・土俵祭り⇒「行事」が執り行う神事のこと。力士たちにケガがないように土俵を清め、また本場所が無事に終えられますように、と神に祈ります。 - 本場所後(千秋楽の翌日)から1週間休み
⇒まとまった休みが取れるので、この機会を利用して里帰りをする力士もいます。
*上述していますが、場所前・場所中の4週間は休みはありません。
地方場所に限っては、番付発表前のさらに2週間前に先発隊が現地に入り、この先発隊が、生活できるように掃除や料理ができる環境を整えておきます。
そして、土俵作りまでを終えてしまいます。
そして、後発隊は地方へ出発するまで部屋で稽古を続けます。
上記の表と比較した表がこちらです。
〇1日目:土俵崩しだった日は、移動日となります。
〇2日目:土俵築だった日は、身の回りの整理をします。
〇3日目:番付発表、土俵祭り=ここから上記のスケジュールと同じになります。
さくら
そうなると力士の日程にも変化があるのかな?
実はそうなんだよ。
「本場所中の力士はどんな生活をしているの?」と疑問を持たれた方は、別の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。
幕下以下でも生活環境に違いはある?
ここまで解説してきましたが、基本的には幕下以下の生活は同じです。
ただ、自分がいた部屋に関していえば、プライベート空間の違いは存在していました。
序の口・序二段は、食事などをする大部屋(30畳~50畳くらい)で、布団を敷いて寝ていました。個人の荷物は、押し入れ上下のどちらか半分(片面)が割り当てられ、そこに3段の衣装ケースで管理します。
大部屋ということもあり、まったくプライベートな空間はありません。それだけでなく、電話や来客の対応もしなくてはなならないので、休日でも精神的に休まることはなかったです。
その点、三段目・幕下になると、ベッドのある部屋を用意されます。ベッドには、棚や引き出しも備え付けられているので、誰かに覗き見られる心配がなくプライベートな空間を持つことができます。
休日でも、来客や電話対応する必要がないので、掃除の時間以外は(ちゃんこ当番でない限り)ずっと寝ていることも可能です。
この生活環境の違いには大きな差があるといえるでしょう。
幕下以下力士の待遇の違いについて
幕下以下力士の待遇について一覧表にまとめましたのでご覧ください。
番付名 | 履物 | 着物 | 帯 | その他 | 基本手当 本場所毎に支給 |
---|---|---|---|---|---|
幕下 | エナメル雪駄・ 黒足袋 |
着物・浴衣・羽織・ 外套(コート) |
博多帯 | 番傘・ マフラー |
16万5千円 |
三段目 | 着物・浴衣・羽織 | ちりめん帯 | なし | 11万円 | |
序二段 | 下駄・黒足袋 | 着物・浴衣 | なし | 8万8千円 | |
序の口 | なし | 7万7千円 |
ここで注意していただきたいのは、基本手当は本場所毎に支給されるので、2カ月ごとの年6回の支給です。表に記入されている金額は、その1回分になります。
また、表には書ききれませんでしたが、本場所で1勝するごとに支給される「奨励金」というシステムも存在します。力士の収入についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ下記の記事をご覧ください。幕下以下の力士だけでなく、関取の収入や賞金の詳細についても知ることができますよ。
さくら
元力士 まさる
ちなみに幕下以下の廻しは、稽古も本場所も同じもので、「木綿の黒い廻し」を使用します。
まとめ
今回は幕下以下の力士に焦点をあてて解説してきました。
この記事を書くために当時の事を思い返していたのですが、「もっとこの時間にトレーニングしていれば!」と後悔のような感情も湧いてきました。
でもそれは歳を取った今だから言えることなんでしょう。
若い時代に努力ができる人が出世をしていける。
だから大関や横綱は偉大なんだなぁって、改めて実感しました。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回の記事でお会いしましょう。