相撲の取的はどの番付まで?ふんどし担ぎの意味と違いを元力士が解説
本場所で関取の明け荷(あけに)を担いだとき、僕は何度も足を止めました。あまりに重く、途中で休まなければ運びきれなかったんです。
僕はなで肩で、明け荷を肩にうまく乗せられず、二の腕で支えて歩きました。下駄の足元も不安定で、一歩進むのも大変です。
それでも非力だとバカにされたくなくて、人目を避けて短く休み、また歩き出しました。
取的だった僕には、土俵で相撲を取るだけでなく、関取の重い明け荷を運ぶ役目もあったんです。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
取的(とりてき)は幕下以下の力士の俗称で、ふつうは序二段以下を指します。
では、似た言葉の「ふんどし担ぎ」とは何が違うのでしょうか。
僕は現役のころ、どちらの言葉も部屋で聞いたことがありません。ブログを書くようになって初めて知り、明け荷を担いだ経験を思い出しました。
この記事では、取的は正式には何と呼ばれるのか、ふんどし担ぎの名はどこから来たのか、明け荷はどれほど重かったのか、取的はどんな暮らしをするのかを解説します。
取的って、初めて聞く言葉です。番付の下のほうにいる力士にも、呼び名があったんですね。
しかもその語源が、関取の荷物を担ぐ仕事だなんて、思ってもみませんでした。
取的はどの番付の力士か
取的は「とりてき」と読みます。幕下以下の力士をまとめて指す俗称ですが、ふだんは序二段と序ノ口の力士を指して使われます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「取的」
正式な呼び名は力士養成員
番付の段は、上から幕内・十両・幕下・三段目・序二段・序ノ口の6つです。このうち十両から上の力士が「関取」で、幕下から下の力士は正式には「力士養成員」と呼ばれます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「関取」「力士養成員」
つまり取的は、この力士養成員の俗な呼び方にあたります。6つの段のうち、ふだん取的と呼ばれているのは下の2段です。
関取と力士養成員で、取組の数や付け人、部屋での暮らしがどこまで変わるのかは、段ごとの違いを一覧にした記事に書いています。
幕下や三段目も取的なのか
取的という言葉には、広い使い方と、ふだんの使い方があります。広く取れば幕下以下の力士をまとめて指し、ふだんは序二段と序ノ口の力士を指します。
そのため、幕下や三段目の力士を取的と呼ぶのは、広いほうの使い方です。
「関取」は中継で何度も聞いていたのに、その下の力士の呼び名は考えたこともなかったです。
朝早く会場に入ったときに土俵に上がっていた力士たちが、取的と呼ばれる番付だったんですね。
ふんどし担ぎとの違いと語源になった明け荷
ふんどし担ぎ(ふんどしかつぎ)は、主に序ノ口と序二段の力士の別名です。関取の明け荷を担ぐことからきた表現で、三段目に上がると、この呼び名からは外れます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「褌担ぎ」
取的とふんどし担ぎの範囲の違い
二つの言葉は、指している番付の幅が違います。
■取的とふんどし担ぎの範囲
- 取的|幕下以下の力士の俗称。主に序二段以下を指す
- ふんどし担ぎ|序ノ口・序二段の力士の別名。三段目に上がると外れる
取的のほうが広く、ふんどし担ぎはその中の下2段です。序二段と序ノ口の力士には、二つの呼び名が重なります。
明け荷とは何か
明け荷は、締め込みや化粧まわしなど、相撲に必要な物を入れる竹で編んだつづらです。力士の旅行かばんのようなもので、大きさは縦45センチ・横80センチ・深さ30センチほどあります。
竹の上に和紙を貼り、渋と漆を塗って固めてあり、表面にはしこ名が入っています。持てるのは十両以上の関取で、関取に昇進したときに同期生や後援者から贈られることが多く、本場所では初日までに付け人が支度部屋へ運び込み、千秋楽まで置かれています。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「明け荷」
肝心の重さは、箱だけで約10キロです。そこへ化粧まわしや締め込み、浴衣などを詰め込むと、50キロ以上になります。運ぶときは縄を巻いて、ふたが開かないようにするとともに、縄を取っ手の代わりにします。
参考:『大相撲 知れば知るほど』「相撲」編集部 編、ベースボール・マガジン社、2015年「開荷」
50キロなんて、私には持ち上げる自信もありません。10キロのお米の袋を5つまとめて、肩に乗せるような重さですから。
それを運ぶのが、序ノ口や序二段の力士の仕事だったんですね。
そんな明け荷の形と説明は、日本相撲協会の公式Xの投稿でも見られます。
<国技館売店情報>おかきが色々入った「明け荷(大)」は2,160円。明け荷をイメージしたパッケージ。明け荷とは、力士の締込や化粧廻しなど相撲に必要なものを入れる竹で編まれたつづらです。#sumo pic.twitter.com/f1L1pzyJdw
— 日本相撲協会公式 (@sumokyokai) January 11, 2017
写っているのは国技館の売店のおかきの箱ですが、つづらの形はよく再現されていて、「明け荷とは」の説明文も協会が書いたものです。
「ふんどしを担ぐ」の意味
ふんどしとは、まわしのことです。関取が本場所で締めるまわしを「締め込み」と呼び、その締め込みが入った明け荷を担いで運ぶのが、序ノ口と序二段の力士の役目でした。
関取のふんどしを担ぐ仕事が、そのまま呼び名になっています。
相撲の外で、その世界の下っ端や半人前の人を「ふんどし担ぎ」と呼ぶことがあるのは、この相撲の言葉から転じた使い方です。
関取に昇進すると、担ぐ側から、自分のしこ名が書かれた明け荷を持つ側に回ります。元大関の琴欧洲(ことおうしゅう)が幕下時代に関取の明け荷を担いで歩く写真も残っていて、担ぐ仕事は序ノ口と序二段に限りません。
参考:『大相撲 知れば知るほど』「相撲」編集部 編、ベースボール・マガジン社、2015年「開荷」
へぇ〜、ふんどし担ぎの「ふんどし」は、まわしのことだったんだ。音だけ聞くと、別のものを思い浮かべちゃいそうだよなぁ。
でも、担いでいるのは関取の締め込みと化粧まわしなんだと思うと、急に重みのある言葉に聞こえてくるよ。
元力士が担いだ関取の明け荷の重さ
力士が東西どちらの支度部屋を使うかは、取組の組み合わせによって日ごとに変わります。関取がいつもと反対側の支度部屋を使う日は、明け荷もそちらへ移さなければなりません。
その明け荷を運ぶのは、僕がいた部屋では、付け人の中で番付が一番下で、取組の早い力士の役目でした。番付が下だったころの僕は、ふんどし担ぎの語源になった仕事を、そのままやっていました。
化粧まわしや締め込みを明け荷に入れて、初日までに支度部屋へ運び込む付け人の仕事は、化粧まわしの記事で詳しく書いています。
一度で運びきれなかった明け荷
では、担いでみるとどれほど重いのか。ここからは、現役のころの僕の話です。
僕が担いだのは、数えるほどです。支度部屋が東西で入れ替わる日に、関取の明け荷を肩に乗せて、反対側の支度部屋まで数百メートル歩きました。国技館でも地方場所でも担ぎましたが、距離は会場によって違います。
持ち上げることはできても、僕は途中で何度か休まないと運びきれませんでした。一方で、僕より番付が下で、力の弱い同期や新弟子は、同じ明け荷を休まずに運べていました。だからこそ、休んでいるところを見られたくなかったんです。
中身は関取によって違い、締め込みや化粧まわしのほかに、相撲に直接いらない物も結構入っていました。そのため、中身の少ない関取の明け荷が回ってきた日は、ホッとしたものです。
担いでいた当時は、鍛錬だなんて思う余裕はありませんでした。
でも今思うと、あの重さを担いで歩いたことが、足腰の鍛錬にもつながっていたんですね。
運び方のコツは教わらずじまい
運び方のコツは、巡業に何度も行って慣れている同期生に聞いたこともあります。仲が良かったので気軽に聞いたのですが、少し馬鹿にされて、ちゃんとは教わらずじまいでした。
その同期生は肩だけでなく背中に乗せるようにして、体全体で支えて運んでいましたね。背中で支えていたその姿を思い出すと、僕は乗せる場所から違っていたのでしょう。本当は、運び方にもっとコツがあるのだと思います。
担いだ体感は50キロか60キロ
本の数字と、僕の体感を並べるとこうなります。
■関取の明け荷の重さ
- 箱だけ|約10キロ
- 荷物を詰めた状態|50キロ以上
- 僕が担いだ体感|50キロか60キロくらい
- 担ぐ人|僕がいた部屋では、付け人のうち番付が下で取組の早い力士
参考:『大相撲 知れば知るほど』「相撲」編集部 編、ベースボール・マガジン社、2015年「開荷」
本に書かれた50キロ以上という数字は、僕が担いだときの感覚とほぼ同じです。
取的の暮らしと待遇の要点
取的と呼ばれる序二段と序ノ口の力士には月給がなく、本場所ごとの場所手当を受け取ります。本場所の取組は原則7番で、部屋では大部屋で寝起きします。関取のいる部屋では、その付け人も務めます。
手当は本場所ごと
場所手当は、2026年11月場所までは序二段8万8,000円、序ノ口7万7,000円です。2027年1月場所からは序二段9万5,000円、序ノ口8万2,000円に上がります。
参考:デイリースポーツ「力士給与・手当もアップ」(2026年7月30日)
この手当に、勝った数に応じた勝星金と、勝ち越した場合の勝ち越し金が加わります。幕下から序ノ口までの段ごとの額や、僕が手当を何に使っていたかは、幕下以下の給料の記事に書いています。
本場所は7番で持ち場は支度部屋
幕下以下の力士が本場所で取る相撲は、15日間で原則7番です。土俵に上がらない日のほうが多く、付け人を務める力士はその時間に関取の世話にあたります。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』田中亮 著、成美堂出版、p.24-25
僕の場合は、複数いる付け人の中でも下だったので、本場所の持ち場は花道ではなく支度部屋でした。関取が戻ってきたら締め込みを外し、風呂から上がったあとの足を拭くのが仕事でした。
付け人の仕事の中身や人数、どう決まるのかは、付け人の記事にまとめています。
ふんどし担ぎを抜ける目印は装いに出る
場所入りの装いは、番付の段が上がるごとに許されるものが増えていきます(2019年時点)。
■場所入りの装い(2019年時点)
- 序ノ口・序二段|夏は浴衣、冬は単衣(ひとえ)の着物。履物は下駄
- 三段目|羽織とエナメルの雪駄(せった)が許される
- 幕下|博多帯・外套(がいとう)・マフラー・番傘が許される
参考:『全部わかる大相撲ガイド』田中亮 著、成美堂出版、p.24-25
僕のころも同じでした。夏は浴衣に裸足で下駄、冬は単衣の着物に黒い足袋をはいて下駄で場所入りしていました。
三段目に上がると、ふんどし担ぎの呼び名から離れると同時に、羽織と雪駄が許されます。下駄で場所入りするのは、主に取的と呼ばれる序二段以下の力士です。
十両との境目で待遇が何から変わるのかは、幕下の記事で扱っています。
浴衣に下駄で場所入りしていたころは、自分がまだ若い衆だということを、格好でも毎日思い出させられるんだよなぁ。
そのぶん、三段目に上がって雪駄が許されると、番付が上がったことを格好でも実感できるんだと思うよ。
場所入りする前と帰ってからの、起床から門限までの部屋での一日は、幕下以下の生活をまとめた記事で追えます。
取的に関するよくある質問
最後に、取的についてよく聞かれることをまとめます。
Q1. 取的の読み方は?
A. 「とりてき」と読みます。幕下以下の力士の俗称で、主に序二段以下の力士を指します。僕がいた部屋では使っていなかった言葉で、僕自身はブログを書くようになって知りました。
Q2. 取的とふんどし担ぎの違いは?
A. 取的は幕下以下の力士の俗称で、主に序二段以下を指します。ふんどし担ぎは序ノ口と序二段の力士の別名で、三段目に上がると外れます。語源は、関取の明け荷を担ぐことです。
Q3. 幕下や三段目の力士も取的?
A. 広くは幕下以下の力士の俗称なので、幕下や三段目も入ります。それでも、ふだん指しているのは序二段と序ノ口の力士です。
Q4. 取的に給料は出る?
A. 月給はなく、本場所ごとの場所手当を受け取ります。2026年11月場所までは序二段8万8,000円、序ノ口7万7,000円で、2027年1月場所から序二段9万5,000円、序ノ口8万2,000円になります。これに、勝った数に応じた勝星金と、勝ち越した場合の勝ち越し金が加わります。
Q5. 取的は何人くらいいる?
A. 2026年9月場所の番付では、序二段が200人、序ノ口が43人で、合わせて243人です。取的を広く幕下以下と取るなら、三段目160人と幕下120人も入ります。
参考:日本相撲協会「番付表」(令和8年9月場所)
序二段と序ノ口には定員がなく、人数は場所ごとに変わります。段ごとの人数と待遇の違いは、階級をまとめた記事で確かめてみてください。
まとめ
番付表の下のほうに小さく載る名前の力士が、本場所の会場では関取の付け人として明け荷を担ぎ、支度部屋のあいだを行き来することもあります。取的は僕がいた番付を、ふんどし担ぎはそこでしていた仕事を、そのまま指す言葉でした。
僕が二の腕に乗せて運んだ明け荷の重さは、担いだ回数が少ないぶん、かえって体に残っています。中身の少ない明け荷が回ってきた日にホッとしたことまで、覚えています。
次に中継や会場で幕下以下の取組を見るときは、その力士がその日どこにいたのかを、少し思い浮かべてみてください。
担いだ荷の重さは、担いだ者にしか分からない。
名前の入った明け荷を持つ日は、その重さを肩で覚えた先にある。取的の時間も、稽古だな。
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