幕下の給料は月給ではない|三段目・序二段・序ノ口の額まで元力士が解説
現役で序ノ口にいたころ、本場所のあとに受け取った手当は、7万円くらいだった気がします。次の手当までは2か月。僕は月3万円ほどでやりくりしていました。
月給がなくても暮らしが回ったのは、住まいと食事を部屋がまかなってくれていたからです。手当は、住まいと食事のほかに必要な、身の回りの物に使うお金でした。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
幕下以下の力士には月給がなく、受け取るのは本場所ごとの場所手当と、勝ち星に応じた勝星金・勝ち越し金です。これらの額は、2027年1月場所から増えることが決まっています。
では、幕下・三段目・序二段・序ノ口でそれぞれいくらになり、そのお金で暮らしはどう回っていたのでしょうか。
この記事では、段ごとの手当がいくらなのか、2027年1月場所からどう変わるのか、何に使っていたのかを、序ノ口で初めて勝ち越した日のご祝儀の話も交えて解説します。
お相撲さんなら、みんな毎月お給料をもらっているものだと思っていました。
月給がないのに、どうやって暮らしているんでしょう。
幕下以下の給料は月給ではなく場所ごとの手当
月給が出るのは十両からです。幕下・三段目・序二段・序ノ口の力士が受け取るのは、本場所ごとに支払われるお金で、年に6回あります。
参考:日刊スポーツ「関取給与を8年ぶり改定へ」(2026年7月30日)
幕下から下は「力士養成員」
幕下以下の力士は、正式には「力士養成員」と呼ばれます。「養成員」と略すこともあります。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「力士養成員」
十両以上の関取と力士養成員の違いは、給料の形だけではありません。本場所の取組数も、部屋での暮らしも、ここを境に変わります。
受け取るお金は3つ
力士養成員が本場所ごとに受け取るお金は、3つに分かれています。この3つは、支払われる単位がそれぞれ違います。
■力士養成員が本場所ごとに受け取るお金
- 場所手当|本場所ごとに、段で決まった額
- 勝星金|1勝ごとに付く
- 勝ち越し金|勝ち越した点数ごとに付く
このほかに、その段で優勝した力士には各段の優勝賞金があります。
関取になると、取組数や付き人、部屋での暮らしまで何が変わるのかは、番付の段ごとの違いをまとめた記事で一覧にしています。
幕下・三段目・序二段・序ノ口の場所手当
場所手当は、本場所ごとに、段に応じて決まった額が支払われるお金です。2026年11月場所までは幕下16万5,000円から序ノ口7万7,000円まで、2027年1月場所からは幕下18万円から序ノ口8万2,000円までになります。
額は4つの段で4通りあり、改定で上がる幅も段ごとに違います。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 段 | 2026年11月場所まで | 2027年1月場所から | 増額分 |
|---|---|---|---|
| 幕下 | 16万5,000円 | 18万円 | +1万5,000円 |
| 三段目 | 11万円 | 12万円 | +1万円 |
| 序二段 | 8万8,000円 | 9万5,000円 | +7,000円 |
| 序ノ口 | 7万7,000円 | 8万2,000円 | +5,000円 |
参考:デイリースポーツ「力士給与・手当もアップ」(2026年7月30日)
※表の「序ノ口」は、出典の表記では「序ノ口以下」です
上がり幅は段によって6〜9%で、額にすると幕下が1万5,000円、序ノ口が5,000円の増額です。
参考:日刊スポーツ「関取給与を8年ぶり改定へ」(2026年7月30日)
場所手当は枚数ではなく段で決まるので、僕のころも、同じ段なら何枚目でも額は同じでした。段が一つ上がれば手当も上がり、落ちれば下がるので、番付がそのまま手当の額でした。
年6場所でいくらになるか
本場所は年に6回あります。同じ段に1年間いた場合の場所手当を6回分にすると、1年の目安が出ます。勝星金と勝ち越し金は入れていない数字です。
■場所手当だけの年6場所分(2026年11月場所まで → 2027年1月場所から)
- 幕下|99万円 → 108万円
- 三段目|66万円 → 72万円
- 序二段|52万8,000円 → 57万円
- 序ノ口|46万2,000円 → 49万2,000円
ここに、勝った数に応じた勝星金と勝ち越し金が乗ります。
同じ幕下以下でも、序ノ口と幕下では手当が2倍以上も違うんですね。
段が上がるたびに手当も増えるなら、番付が上がったときのうれしさは、お金の面でも大きそうです。
勝てば増える勝星金と勝ち越し金
場所手当のほかに、勝ち星に応じたお金が2つあります。1勝ごとに付く勝星金と、勝ち越した点数ごとに付く勝ち越し金です。
幕下以下の本場所は、原則として7番です。取組が少ないぶん、1勝するたびに受け取る額がはっきり変わります。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 段 | 勝星金(1勝ごと) 2026年11月場所まで → 2027年1月場所から |
勝ち越し金(1点ごと) 2026年11月場所まで → 2027年1月場所から |
|---|---|---|
| 幕下 | 3,500円 → 4,000円 | 8,000円 → 1万円 |
| 三段目 | 3,000円 → 3,500円 | 6,500円 → 8,500円 |
| 序二段 | 2,500円 → 3,000円 | 5,500円 → 7,500円 |
| 序ノ口 | 2,500円 → 3,000円 | 5,500円 → 7,500円 |
参考:デイリースポーツ「力士給与・手当もアップ」(2026年7月30日)
勝ち越し金の数え方
勝ち越しの点数は、勝ち数から負け数を引いた数です。4勝3敗なら1点、5勝2敗なら3点、7戦全勝なら7点になります。
負け越した場所には勝ち越しの点がないので、勝ち越し金は出ません。勝星金のほうは、負け越しても勝った数のぶんだけ付きます。
幕下6勝1敗と序二段4勝3敗の計算例
たとえば幕下で6勝1敗なら、勝星金は6つ、勝ち越し金は5点分です。場所手当と合わせると、1場所の受け取りはこうなります。
■幕下で6勝1敗(勝ち越し5点)
- 2026年11月場所まで|16万5,000円+3,500円×6+8,000円×5=22万6,000円
- 2027年1月場所から|18万円+4,000円×6+1万円×5=25万4,000円
■序二段で4勝3敗(勝ち越し1点)
- 2026年11月場所まで|8万8,000円+2,500円×4+5,500円×1=10万3,500円
- 2027年1月場所から|9万5,000円+3,000円×4+7,500円×1=11万4,500円
2026年11月場所までの額で見ると、6勝1敗の幕下力士は、場所手当だけの場合より6万円あまり多く受け取る計算です。序二段の4勝3敗でも、場所手当に1万5,000円ほどが乗ります。
3勝3敗で迎える7番目は、勝てば勝星金に勝ち越し金まで付いて、負ければ勝ち越し金はゼロになるんだよ。
星の差は1つなのに受け取る額ははっきり変わるから、あの一番だけは体が固くなるんだよなぁ。
手当は何に使う?部屋暮らしのお金の出入り
家賃と食費は部屋もちです。僕の場合、手当は身の回りの物と稽古の道具、それから髷の油代に使っていました。
ここから先は、僕がいた部屋での話です。部屋によって違うところもあると思いますので、そのつもりで読んでください。
部屋がまかなうもの
力士は部屋に住み込み、食事はちゃんこ番が作ります。そのため、家賃と食費は基本的にかかりません。
ただし、体を大きくするために夕食のあとにコンビニで弁当を買って食べるような夜食は、自己負担です。
部屋での一日の流れや休日の過ごし方は、幕下以下の生活をまとめた記事に書いています。
自分で払うもの
部屋が持ってくれるのは住まいと食事までで、身の回りの物から先は自分の手当から出していました。金額はどれも、僕の現役のころの値段です。
■僕が手当から払っていたもの
- 生活用品|洗濯洗剤・シャンプー、絆創膏や消毒液などの治療用品
- 稽古の道具|黒のまわし(両国国技館で1m800円)、テーピング(国技館内の相撲診療所で幅1cm×1個100円)、さらしを割いて作る包帯、タオル、プロテイン
- 浴衣|反物は関取や師匠からいただき、部屋の近所の方に1着5,000円で仕立ててもらった
- 髷の油代|場所ごとに「油銭」として部屋の床山さんに5,000円
- 夜食|夕食後のコンビニ弁当など
浴衣の反物には、部屋の名前やしこ名が染め抜かれています。暑中見舞いや昇進・引退のあいさつとして配られるもので、もらった側が仕立てて着ます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「浴衣」
親方どうしや関取どうしで贈り合っているのだと思いますが、反物が余るので、そういったものをいただくこともありました。そのため、浴衣で僕の手当から出ていったのは、おもに仕立て代でした。
一覧の中で髷の油代だけは、髷を結えるようになる前のほうが高くつきました。
髷を結うまでは油代のほうが高くついた
油銭は、髪を結ってもらったときに心付けとして床山に渡す油代です。くしと元結は協会から床山に現物で支給されるので、力士が負担するのはすき油(鬢付け油)の分になります。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「油銭」
僕がいた部屋には床山さんが所属していたので、現役のころの油銭は、場所ごとに一括で渡す形でした。本場所中にほかの部屋の床山さんに結ってもらうときは、すき油を持参してお願いしていました。
ところが、油代がかさんだのは髷を結えるようになる前でした。入門してすぐは、髪が髷を結えるほど伸びていません。この時期を「ざんばら」と呼びます。
髷は結えなくても、すき油で髪をオールバックにまとめなければいけないので、すき油は自分で買っていました。両国のお店で、当時は1個1,200円。本場所から次の本場所までの約2か月で、個人差はあると思いますが5〜6個は必要でした。
ざんばらの時期と髷を結ってからで、油代の出方はこう違いました。
■油代の出方(僕がいた部屋、当時の値段)
- ざんばらの時期|すき油を自分で買う。1個1,200円×約2か月で5〜6個
- 髷を結ってから|油銭を場所ごとに床山さんへ一括で渡す。5,000円
髷を結って油銭を払うほうが安く上がるので、早く髷を結いたかったのを覚えています。
僕のころのすき油は缶に入っていました。力士の髷に使われているオーミすき油は、十数年前に缶から紙箱入りに変わっています(2025年5月時点)。
参考:和樂web「江戸薫る整髪剤『オーミすき油』の秘密」(2025年5月)
着物は兄弟子のお下がりだった
油代とは反対に、着物には手当を使ったことがありません。入門のときに1着いただき、その後は自分で用意することになっていましたが、高いと分かっていたので、買うことを考えもしませんでした。
そのかわり、体型が近い兄弟子にかわいがってもらっていて、たまにお下がりをいただいていました。なぜかその兄弟子は、いろいろな着物を持っていたんです。強くて人気のある人だったので、タニマチでもいたのかもしれません。
部屋の力士が同じような着物を着ている中で、違う着物を着るのは勇気がいりました。それでも、着てしまえば優越感を味わうことができました。
現役のころの僕のやりくり
僕の場合、毎月の生活費はおよそ3万円で、その中でやりくりしていました。うまく回った場所は、次の手当を受け取るころに少しお金が残り、貯金や娯楽・嗜好品に回しました。
とはいえ、本場所が終わって緊張から解放されると、つい遊びたくなります。予算を超えて使ってしまう場所もあり、貯金はあまりできませんでした。
本場所が終わった日に、つい遊びたくなる気持ちは少し分かる気がします。私も大きな仕事が片づいた週は、ごほうびのつもりで外食が増えますから。
でも、私のお給料は毎月入ります。同じ気分で使っても、手当だと次まで2か月もたせられるかの話になるんですね。
手当のほかに入るお金
場所手当・勝星金・勝ち越し金のほかにも、力士養成員の手元に入るお金はあります。ご祝儀のように部屋の方針や本人の立場で変わるものと、優勝賞金のように額の決まったものです。
勝ち越した日のご祝儀
ここからは、現役のころの僕の話です。初めてご祝儀をいただいた日のことです。
序ノ口で初めて勝ち越した場所の千秋楽パーティーで、3人くらいの方からご祝儀をいただきました。記憶では、1万円ずつです。顔も名前も知らない方々で、とてもありがたかったのを覚えています。
僕がいた部屋では、いただいたご祝儀はおかみさんに報告することになっていました。あとでお礼を言わないといけないからです。ご祝儀はいただいて終わりではなく、どなたからいただいたかを伝えるところまでがひと続きでした。
師匠からも、前からこう言われていました。
「後でお礼を言わないといけないから、どなたか確認しなさい」
ところが、僕は引っ込み思案で、その場でお礼を言うのが精一杯でした。どなたなのか、聞けませんでした。
これは僕がいた部屋の方針です。ほかの部屋がご祝儀をどう扱っているのかは、僕には分かりません。報告せずにそのまま受け取る部屋もあると思います。
千秋楽パーティーに来てくださる後援者やタニマチがどんな方なのかは、タニマチの記事で書いています。
餅つきや付き人で入るお金
部屋の外の仕事で入るお金もあります。年末年始には、企業や団体の依頼で相撲部屋の力士が餅つきに出向くことがあり、僕も一度だけ経験しました。師匠を通じて、おおよそ3万円の報酬をいただいた記憶があります。
部屋の中では、関取の付き人を務めていた時期に、その関取から1場所ごとに3万円ほどいただいていました。額は、関取の性格や付き人の仕事ぶりによって大きく変わるようです。
付き人の仕事の中身や人数、どう決まるのかは、付き人の記事にまとめています。
各段の優勝賞金
その段で優勝すれば、各段の優勝賞金があります。2026年11月場所までは幕下50万円、三段目30万円、序二段20万円、序ノ口10万円で、2027年1月場所からは幕下70万円、三段目50万円、序二段30万円、序ノ口20万円になります。
参考:日刊スポーツ「優勝賞金2倍!33年ぶり改定」(2026年7月30日)
優勝賞金と副賞の中身、僕が部屋で見た優勝の日のことは、優勝賞金の記事で書いています。
決まった額の優勝賞金より、僕が気になるのはご祝儀のほうだなぁ。
顔も名前も知らない方からいただくと、ありがたい半分、どう受け取ったらいいか迷いそうだよ。その場で「どなたですか」って聞き返すのは、僕なら立ち合いより緊張すると思う。
幕下以下の給料に関するよくある質問
最後に、幕下以下の手当についてよく聞かれることをまとめます。
Q1. 幕下は給料がもらえないって本当?
A. 月給はもらえません。幕下の力士が受け取るのは、本場所ごとの場所手当(2026年11月場所まで16万5,000円、2027年1月場所から18万円)と、勝ち星に応じた勝星金・勝ち越し金です。
Q2. 幕下以下の年収はいくら?
A. 同じ段に1年間いた場合、場所手当だけで見ると、2026年11月場所までの額で幕下99万円、三段目66万円、序二段52万8,000円、序ノ口46万2,000円です。2027年1月場所からの額なら、幕下108万円、三段目72万円、序二段57万円、序ノ口49万2,000円になります。
ここに勝星金と勝ち越し金が加わり、優勝すれば優勝賞金も入ります。実際の年収は、勝ち負けに加えて、場所ごとに番付が上下することでも変わります。
Q3. 幕下の何枚目かで手当は変わる?
A. 変わりません。場所手当は段で決まり、僕のころも同じ段なら何枚目でも同じ額でした。
段が一つ上がると額が上がります。2027年1月場所からの額で、序二段9万5,000円、三段目12万円、幕下18万円です。
Q4. 十両から幕下に落ちたら給料はどうなる?
A. 月給は十両以上の力士に支払われるので、幕下に落ちた場所から月給はなくなり、幕下の場所手当(2026年11月場所まで16万5,000円、2027年1月場所から18万円)になります。十両の月給は、2026年11月場所まで110万円、2027年1月場所から120万円です。
参考:日刊スポーツ「関取給与を8年ぶり改定へ」(2026年7月30日)
十両と幕下の境目で、取組数や待遇に何が変わるのかは、幕下の記事で詳しく書いています。
Q5. 幕下付出しの力士の給料は?
A. 幕下付出しで入門した力士も、受け取るのは幕下の場所手当です。付出しで置かれる地位は、高くても幕下の最下位格(2025年2月時点)なので、月給の対象にはなりません。
Q6. 引退するときにお金は出る?
A. 幕下以下の力士養成員には、引退するときに協会から餞別が支給される仕組みがあります。標準の金額があらかじめ決められていて、実際の支給額は勤めた年数をもとに決まります。ただし、三段目以下の力士に支給されるのは、15場所以上勤めた場合に限られます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「餞別」
この餞別(報道では「せん別金」)は、2027年1月場所から倍増すると発表されました。2026年7月の発表では、改定後の額は示されていません。
参考:東スポWEB「幕内優勝賞金が倍増、関取月給も増額」(2026年7月30日)
引退したあとの進路とお金の現実は、こちらの記事で書いています。
まとめ
番付表の下のほうに小さく載る名前にも、2か月ごとの手当があり、その中で暮らしを回している力士がいます。反物や着物のお下がりのように、手当の外から届くものに助けられることもありました。
僕が序ノ口で初めて勝ち越した場所では、千秋楽パーティーで、顔も名前も知らない方からご祝儀をいただきました。今でも覚えているのは、金額そのものより、
「ありがとうございます」
、相手の名前を聞けなかったことです。
次に幕下以下の取組を見るときは、その力士を土俵の外で支えている人のことも、少し思い浮かべてみてください。
一番で動くのは、手当だけではないな。
番付も、次の場所の暮らしも、同じ土俵の上で決まる。
取組が少ないからこそ、一番が重い。
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