相撲のすり足はなぜ足を浮かせない?やり方と効果を元力士が解説
現役のころ、取組の中で相手の動きにとっさに反応し、かかとを土俵へ強く打ちつけて痛めたことがあります。それも、一度ではなく何度かです。
僕の場合、足が浮いた状態でいなされたり横へ動かれたりすると、次の一歩が遅れて体勢を崩しやすくなりました。
すり足は、前へ出るためだけの稽古ではありません。相手に動かされたときも、足元を崩さないための基本でした。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
すり足とは、腰を落とし、足の裏を土俵から離さずに進む相撲の基本動作です。普通に歩いたほうが楽なのに、なぜ力士はわざわざ足を浮かせずに進むのでしょうか。
この記事では、すり足とはどんな稽古なのか、なぜ足を浮かせないのか、稽古場ではどのように行うのかを、現役時代にかかとを痛めた僕自身の経験も交えて解説します。
すり足って「前へ進む練習」だと思っていました。でも、足を浮かせないこと自体に意味があるんですね。
かかとを痛めた話とどうつながるのかも気になります。
相撲のすり足とは?足の裏を土俵から離さずに進む稽古
すり足は、腰を落とし、足の裏を土俵につけたまま前へ進む基本稽古です。見た目は地味ですが、四股やてっぽうと並ぶ、相撲の基本の動きの一つです。
実際の動きは、以下の映像で見られます。
映っているのは、日本相撲協会の英語チャンネル「SUMO PRIME TIME」が公開した約1分の映像です。黒いまわしの力士が、腰を落としてすり足の基本動作を見せています。
解説は英語ですが、足の運びを見るだけでも動きは分かります。見るときは、足の裏が土俵から浮かないことと、進んでいる途中で腰の高さが変わらないことに注目してみてください。
本当に、足を持ち上げずに進んでいますね。歩くのとも走るのとも違います。
腰の高さを変えずに続けるところを見ると、見た目よりかなり脚を使いそうです。
すり足は相撲の基本
すり足とは、土俵の表面から足を離さずに、するように足を運ぶことです。相撲の基本とされています。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「すりあし」
では、なぜ足を浮かせないことが基本なのでしょうか。その理由は、このあと取組の動きと僕自身の経験から書きます。
四股・てっぽうと並んで稽古の最初に行う
本格的な稽古に入る前には、四股・てっぽう・すり足・股割りなどの基本動作を行い、体を慣らして温めます。すり足も、その中の一つです。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
なお、四股の踏み方や、僕が現役時代に何回くらい踏んでいたのかは、こちらの記事で詳しく書いています。
すり足のやり方は?腰を落として足をすべらせる
では、すり足は実際にどのような姿勢で行うのでしょうか。基本の動きを分けると、次のようになります。
- 脚を開いて腰を落とす|脚を大きく開き、膝が直角になるくらいまで腰を落とす
- 上体をやや前へ|上半身をやや前かがみにして、脇を締める
- 足を浮かせずに進む|足の裏を土俵につけたまま、左、右と交互に前へ出す
参考:『全部わかる大相撲ガイド』(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
すり足は、前へ進むだけではありません。横方向へ足を運ぶすり足もあります。
ゆっくり進むすり足と速く進むすり足
すり足には、ゆっくり進む稽古と、速く進む稽古があります。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
僕は現役時代、速いすり足と遅いすり足で、別々の取組の場面をイメージしていました。正式に「速いすり足は攻め、遅いすり足は守り」と決まっているわけではなく、僕が稽古で意識していた使い分けです。
- 速いすり足|立ち合いで押し勝ったあと、そのまま相手を逃がさず前へ出る。相手が引いたところについていく、速攻の相撲をイメージ
- 遅いすり足|相手の引き・いなし・変化に崩されず、足元を安定させて反撃する場面をイメージ
遅いすり足では、おっつけから反撃する場面もイメージしていました。おっつけとは、相手の腕に外側から手を押し当てて、下から絞り上げるように力を加える技です。守りから攻めに転じるための、大事な技とされています。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「おっつける」p.51
速いすり足で「前へ出続ける足」を、遅いすり足で「崩されない足」を確かめる。僕は、そんな感覚で稽古していました。
てっぽうでも足はすり足で運ぶ
すり足は、ほかの基本動作の中にも入っています。その一つが、てっぽうです。
てっぽうでは脇を締め、右手で突く場合には右腰を入れ、同時に右足をすり足で入れていきます。これを左右繰り返して何度も行います。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「てっぽう」
柱を突いている手に目がいきますが、その下では毎回、足もすり足で動いています。
また、てっぽうのやり方については、別の記事で詳しく書いています。
ゆっくりやるほうが楽そうに見えるけど、実は逆なんだよなぁ。腰を落とした状態を長く保たないといけないから、下半身にずっと負荷がかかって、そっちのほうが辛いんだよ。
速くても遅くても、足が浮いていないか、腰の高さが崩れていないか。そこを確かめながら繰り返すのが大事なんだよ。
なぜすり足なのか?足を浮かせない理由
すり足で足を土俵から離さないのは、安定した体勢を保つためです。安定した体勢を保つことは、攻めるときにも守るときにも鍵になります。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』p.43(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
これは、まっすぐ前へ出る場面だけの話ではありません。相手が横へ動いたとき、いなされたとき、投げを打たれたとき、立ち合いで変化されたとき。そうした場面でも、足元が安定しているかどうかが次の動きに関わります。
関脇(当時)の若隆景関も、海外向けの動画の中で、すり足についてこう話しています。
「相撲の基本はすり足。足を浮かせたら重心が崩れる。常に両足を地面につけて土をかむことが大事」
参考:東スポWEB「若隆景が海外ファンへ向けてすり足をレクチャー」(2022年8月16日)
では、足が浮いた状態で相手に動かされたらどうなるのか。僕自身、その難しさを何度も経験しました。
足が浮くといなしや横の動きに対応しにくかった
ここからは、現役時代の僕自身の話です。
僕の場合、取組の中で足が浮くと、相手のいなしや投げに対して次の一歩が遅れ、体勢を崩してそのまま負けてしまうことがよくありました。
何とか反応できても、安心はできません。相手の動きにとっさに反応した結果、かかとを土俵へ強く打ちつけて痛めたことが何度かあります。
足が浮いた状態からとっさに動こうとすると、体勢を安定させるのが難しいんです。だからこそ、すり足は基本の動作なのだと思っています。
いなしや投げは、相手がこちらの体勢を崩しにくる動きです。僕が遅いすり足で意識していた「引きやいなしに崩されず、反撃につなげる」という感覚は、この経験ともつながっています。
ぶつかり稽古でもいなしに反応する場面があった
足元を崩さずに相手の動きへ対応する場面は、すり足の稽古だけではありません。ぶつかり稽古でも、急にいなされることがありました。
ぶつかり稽古で押し切れなかったり、いなされたりすると、首を押されながら土俵上をすり足で歩き回され、そのまま転がされます。
参考:『相撲大事典』第4版(金指基 原著、現代書館)「ぶつかり稽古」p.292
僕自身は、こうした突然のいなしに反応する経験が、立ち合いで変化されたときに対応する練習の一つにもなっていたと感じています。
ちなみに、ぶつかり稽古の流れや、何がきつかったのかについては、こちらの記事で書いています。
前へ出るときだけ、足元が大事なわけではない。
いなされたとき、投げを打たれたとき、横へ動かれたときにも、次の一歩がいる。
派手な技が出る前に、足元ではもう勝負が始まっているんだな。
すり足にはどんな効果があるのか
すり足でまず身につけるのは、足を浮かせずに体を運ぶ感覚です。ここまで書いてきたとおり、この足運びは攻めるときにも、相手の動きに対応するときにも使います。
体そのものにかかる負荷もあります。大きく分けると、次の2つです。
- 安定した足運びを覚える|足を浮かせずに体を運び、相手の動きに対応しやすい姿勢を作る
- 下半身を使い続ける|腰を落とした姿勢のまま進むため、脚や腰に負荷がかかる
腰を低くしたまま進み続けるので、脚はかなり使います。たとえるなら、スクワットを繰り返しながら進んでいるような負荷で、筋力づくりにつながる部分もあると思います。
とはいえ、すり足だけで足腰が強くなったとは、僕には言えません。四股、てっぽう、申し合い、ぶつかり稽古など、いろいろな稽古が重なった結果として体が作られていくからです。
僕にとってのすり足の意味は、相撲で使う足の運びを繰り返し、考えなくても動けるようにしていくことでした。
元力士はすり足をどこでやっていたか
ここからは、相撲教習所と僕がいた部屋で、すり足をどう行っていたのかを書きます。部屋によって稽古の流れは違うので、僕自身が経験した環境での話として読んでください。
教習所では全員で並んで何度も繰り返した
相撲教習所では、新弟子が土俵に並び、みんなですり足をしました。実技では「1・2」「1・2」と声を出しながら、むかでのように連なって進んでいきます。
参考:『裏まで楽しむ!大相撲』(ダグハウス編、KADOKAWA、2017年)
僕の記憶では、何往復したら終わりというより、時間が来るまで同じ動きを繰り返す形でした。土俵の上を行ったり来たりしながら、僕がいたころは30分ほど続けていたと思います。
相撲教習所で何を学ぶのかについては、別の記事で詳しく書いています。
部屋では土俵まわりで自主的にやることが多かった
相撲部屋の朝は、若い衆が先に稽古場へ下り、四股やすり足などの基礎運動から始めます。関取が稽古場へ下りてくるのは、そのあとです。稽古を始める時間や流れは、部屋によって違います。
参考:『裏まで楽しむ!大相撲』p.14(ダグハウス編、KADOKAWA、2017年)
では、僕がいた部屋では、すり足をどこでやっていたのか。ここからは、現役のころの僕の話です。
僕がいた部屋でも、たまには全員で並んですり足をすることがありました。とはいえふだんは、土俵で稽古をしていない力士が、土俵のまわりの空いている場所で、それぞれ自主的にやることのほうが多かったです。
ところが、時間がたって全員が稽古場へ下りてくると、土俵まわりも人で埋まってきます。そうなると、すり足をする場所がありません。
「それなら、人の少ない時間にやればいい」
そう考えて、いつもより早起きして基礎稽古をしようとしたこともあります。結果は、眠さに負けて三日坊主でした。
稽古場って、好きな場所を好きなだけ使えるわけじゃないんだよなぁ。土俵まわりが埋まれば、まっすぐ進むすり足はやりづらい。
早く起きてやろうと考えるのは分かるよ。三日坊主で終わったところも、正直ちょっと共感するなぁ。
すり足に関するよくある質問
最後に、すり足についてよく聞かれる疑問をまとめます。
Q1. 一般の人でもできますか?
A. 足腰を鍛えたいなら、試してみてもよいと思います。ただ、ある程度広い場所が要るので、積極的にはすすめにくいです。
注意したいのは床です。足をすべらせる動きなので、すべらない床で無理にやると、足が引っかかって膝に負担がかかることもあると思います。痛みや違和感が出たら、そこでやめてください。
外で靴を履いてやる手もあります。けれど砂煙が舞いますし、靴も汚れて傷み、すぐにだめになります。かといって、裸足でできる場所も少ないと思います。
Q2. 四股とすり足はどちらが大事ですか?
A. どちらか一方ではなく、役割が違います。四股は下半身と背筋の強化に役立ち、投げや捻りの技をこらえて逆転するときの基本になります。
一方のすり足は、安定した体勢を保ったまま体を運ぶ足運びで、その体勢が攻めと守りの両面で鍵になります。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』p.43(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
Q3. すり足はきついですか?
A. きついと言えば、きついです。腰を低くした状態を保ちながら足を何度も運ぶので、下半身を使い続けます。
それでも僕の感覚では、限界まで追い込む稽古というより、基本の動きを体に覚え込ませるための稽古でした。
Q4. すり足のとき手はどうしていますか?
A. 脇を締め、上半身をやや前かがみにした姿勢で足を運びます。
参考:『全部わかる大相撲ガイド』(田中亮 著、成美堂出版、2019年)
僕が稽古でやっていたのは、手のひらを自分のほうへ向けて、斜め上へ押し上げるように出す形です。相手をおっつけて押していくイメージで、その手を足の運びと連動させながら、左右交互に進んでいきます。
肘を固めて、相手に差されないようにする意味もあります。どちらにしても、相手を押すイメージを持って足を運ぶことが欠かせませんでした。
まとめ
すり足を知ると、取組の見え方が少し変わります。決まり手より少し前、押している力士の足が浮いていないか、いなされた力士が次の一歩をどこへ出したのかに、目が行くようになると思います。
僕がかかとを何度も痛めたのは、足が浮いた状態から、とっさに反応したときでした。振り返ると、教習所で時間が来るまで繰り返した地味な足運びが、攻めるときも相手に動かされたときも、足元を支える土台になっていました。
速く前へ出るときも、いなされて踏みとどまるときも、最後に体を支えるのは足元だ。
派手な決まり手が出る前に、どちらの足が残っているか。
次の一番では、そこを見てみるといい。
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