相撲の肩透かしはなぜ決まる?稽古で食らった元力士が解説
稽古場で、兄弟子に何度も当たっていた時期があります。押しても押しても重くて、体はびくともしませんでした。
それでも前に出ようと、体重をかけた瞬間でした。
支えが急に消えて、体が前へ泳ぎます。足がついてきません。何が起きたのか分からないまま、受け身を取っていました。
肩透かしでした。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
肩透かしという言葉は、「肩透かしを食う」という言い回しで日常的に使われています。そのせいか、相撲の技だと知らないまま耳にしてきた方も多いのではないでしょうか。
実はこの慣用句、相撲の決まり手が語源です。
この記事では、肩透かしの意味・決まりやすい場面・似た技との見分け方・語源まで、元力士の体験も交えながら解説します。
うむ。力でねじ伏せる技ではない。
相手が出てくる力を、そのまま返してやる技だ。
だからこそ、勢いよく前に出た者ほど、外されたときに大きく崩れる。
肩透かしの意味・基本イメージ
日本相撲協会は肩透かしを、以下のように定義しています。
差し手で相手の腕のつけねを抱えるか、わきに引っかけるようにして前に引き、体を開きながらもう一方の手で相手の肩などを叩いて引き倒して勝ちます。
つまり肩透かしは、片手で相手の腕を引き込み、もう片方の手で肩をはたくという、2つの動作が同時に起きる技です。分類は捻り手で、とったりや突き落としと同じ仲間にあたります。
なお協会の表記は「肩すかし」です。この記事では読みやすさを優先して「肩透かし」で統一し、公式の定義を引くところだけ元の表記を残しています。
なぜ決まるのか。相手が前に出る勢いを利用しているから
肩透かしが決まるのは、差し手の引きと反対の手の叩きを合わせて、相手が前に出る力をそのまま崩しに使っているからです。
そしてこの技には、動作の説明だけでは見えてこない仕掛けがあります。
『相撲大事典』は、肩透かしを相手に差してくると思わせて引く技だと説明しています。差し手を入れにいく素振りを見せて、相手に組みにくる気配を感じさせる。相手はそれに応じて前に出てくる。
その出てきた勢いを、そのまま利用するわけです。
自分の腕力だけで倒しているのではありません。相手が前に出る力を、こちらから引き出したうえで外している。だから体格で劣る力士でも決められます。
参考:『相撲大事典』第4版、金指基 原著、現代書館
「肩透かしを食う」の語源になった技
期待を外されたときに使う「肩透かしを食う」という言い回しは、この決まり手が語源です。
肩透かしを食うと突然引き倒されたようになることから、相撲の外でも使われています。勢い込んで進んだのに、その勢いを利用されて空を切る。言葉の意味と技の中身が、きれいに重なっています。
日常では「肩透かしを食らう」の形で使われることも多いのですが、事典の見出しは「食う」です。
参考:『相撲大事典』第4版、金指基 原著、現代書館
普段なにげなく使っている「肩透かしを食う」が、まさか相撲の技だったなんて。
期待して前に出たのに外される感じ、言葉のほうもそのままですね♪
肩透かしが起きる場面・条件
同じ捻り手でも、肩透かしには決まりやすい状況があります。
前に出てくる相手にこそ決まる
相手の前進する勢いを利用しやすい技なので、前に出てくる相手ほど決まりやすくなります。
止まっている相手や、慎重に間合いを測っている相手には決まりにくい技です。逆に、当たりから一気に前へ出る場面では、肩透かしが決まりやすい状況が生まれます。
勢いよく前に出るほど、外されたときに体勢を戻しにくくなるからです。
食らう側の感覚でいうと、上半身だけが前に引き出されて、足がついてきません。踏ん張ろうにも、踏ん張る足がもう体の下にない状態です。
叩き込みとの違いは「差し手側で引き込む動作」
相手が前のめりに落ちるので、肩透かしは叩き込みとよく似て見えます。実際、倒れる瞬間だけを切り取ると、見分けがつきにくいことがあります。
手がかりになるのは、差し手側の動きです。
肩透かしでは、差し手で相手の腕のつけ根を抱えるか脇に引っかけて前へ引き込み、そのうえで反対の手で肩をはたきます。この引き込みと叩きが組み合わさって成立する技です。
| 差し手側の引き込み | 倒し方 | |
|---|---|---|
| 肩透かし | ある(腕のつけ根を抱えるか脇に引っかけて前へ引く) | 引きながら反対の手で肩をはたく |
| 叩き込み | ない | 体を開きながら上から叩いて落とす |
似ているのは結果であって、そこに至る動作は別物です。倒れた姿だけを見ていると区別がつきにくいので、その一つ前の腕の動きを見ることになります。
参考:『相撲大事典』第4版、金指基 原著、現代書館
なお叩き込みそのものについては、引き落としとの違いも含めて別の記事でまとめています。
同じ捻り手の仲間
肩透かしが属する捻り手には、ほかにも次のような技があります。
- とったり … 相手の片腕を両手で抱え取り、体を開いて手前にひねり倒す
- 突き落とし … 片手を相手のわきの下か脇腹に当て、体を開きながら斜め下へ押さえつけるように倒す
- 巻き落とし … まわしを取らずに差し手で相手の体を抱え、巻き込むようにして横にひねり倒す
いずれも正面から押し切るのではなく、相手の腕や重心、前へ出る反動を利用して体勢を崩す技です。
押してくる相手にこそ決まるっていうのが、いちばん怖いところなんだよね。
前に出るしかない場面ってあるからさ。
分かっていても足は止まらないんだよ
また、とったりについては、逆とったりとの違いまで詳しく解説した記事があります。
肩透かしの使い手と実際の取組例
肩透かしは、決まり手として頻繁に出る技ではありません。
日本相撲協会の集計では、決まり手のランキングで15位・1,760回・全取組の0.9%です。1,000番に9番ほどしか出ない計算になります。
ところが、その少ない0.9%を1人でかき集めている力士がいます。
| 力士 | 肩すかしの回数 |
|---|---|
| 翠富士 | 82 |
| 大翔城(令和4年3月場所引退) | 35 |
| 宇良 | 29 |
| 飛燕力 | 28 |
| 千代翔馬 | 25 |
翠富士が2位に倍以上の差をつけています。全体では頻度の高くない技ですが、翠富士にとっては勝ち方のひとつとして定着しています。2026年7月場所の番付では東十両八枚目にいます。
参考:日本相撲協会公式「肩すかし」(集計期間:平成25年1月場所〜令和8年7月場所千秋楽、190,450番)
綱取り大関を転がした一番
2024年初場所の4日目、翠富士が霧島を肩透かしで破りました。
当時の霧島は綱取りがかかった大関で、3日目まで無傷。この日が初めての黒星でした。
注目したいのは、敗れた霧島の言葉です。
肩透かしがあることは警戒していたのに食ってしまった
警戒していても食ってしまうことがある。この一番は、肩透かしの怖さがよく表れています。相手が出てくる勢いを利用する技なので、警戒していても、前へ圧力をかける過程で重心を崩されれば決まることがあります。
なお霧島自身が「食ってしまった」と話しているとおり、慣用句のほうの言い回しが、土俵の上でもそのまま使われています。
参考:ベースボール・マガジン社「【相撲編集部が選ぶ初場所4日目の一番】翠富士、十八番の肩透かし!」
この一番は、日本相撲協会の公式チャンネルで公開されています。翠富士が右を差してから、間合いが空いた一瞬で引くところに注目してみてください。
警戒していた大関でも食らってしまうんですね…!
82回で2位の倍以上って、たまたま出た技じゃないってことですよね
元力士から見た「肩透かし」のリアル
僕自身は、肩透かしを使ったことがありません。正確に言うと、使えませんでした。
稽古場でやっていたのは、押しと寄りがほとんどです。それでも技を試すことはあって、部屋には肩透かしや引き落とし、切り返しをうまく使い分ける兄弟子がいました。
その兄弟子とは、押しても重くて動かないくらいの実力差がありました。それだけでも歯が立たないのに、僕が押すタイミングを見計らって、ときどき引き技や捻り技を出してくるんです。
今思えば、練習台のように扱われていたのだと思います。
タイミングよく決まると、反応ができません。足がついていかないので、力の流れに身を任せて受け身を取るしかありませんでした。
僕が肩透かしを使えなかったのは、練習したことがなかったからです。そしてそれには理由がありました。
師匠から、引いてはいけないと言われていたんです。癖になるから、と。
ただ、技そのものを否定されたわけではありませんでした。基本がしっかりしてくればいつでも技は覚えられるから、まずは押すことを身につけるように、という趣旨でした。
名手も「とりあえず当たれ」と言われている
この教えは、下の番付にいる者だけに向けられたものではないようです。
霧島を肩透かしで破った直後、翠富士はこう話しています。
親方には…“とりあえず当たれ”と怒られている
肩透かしを最大の武器にしている力士が、親方からはまず当たれと言われている。しかもこの日は、その言いつけどおりに当たったことがいい流れを作り、結果として肩透かしにつながったと報じられています。
僕は、技は押しの土台があってこそ生きるのだと感じました。番付も部屋も違う二人が同じことを言われていたと知って、師匠の言葉の意味がようやく分かった気がします。
参考:ベースボール・マガジン社「【相撲編集部が選ぶ初場所4日目の一番】翠富士、十八番の肩透かし!」
分かるなあ。僕らも最初はとにかく当たれって言われてたもんね。
技から先に覚えると、苦しくなったときにそっちへ逃げちゃうんだよ
肩透かしに関するよくある質問
肩透かしについて、疑問に思われやすい点をまとめました。
Q1. 肩透かしと叩き込みは何が違うのですか
A. 差し手側の動きで見分けます。肩透かしは、差し手で相手の腕のつけ根を抱えるか脇に引っかけて前へ引きながら、反対の手で肩などを叩きます。叩き込みには、この引き込みがありません。
相手が前のめりに倒れる瞬間はよく似ていますが、そこに至る動作が別物です。
Q2. 肩透かしはよく出る決まり手ですか
A. 決まり手のランキングでは15位で、全取組の0.9%にあたります。1,000番に9番ほどという頻度なので、本場所を通して観ていても毎日は見られません。
Q3. 肩透かしが得意な力士はいますか
A. 平成25年1月場所から令和8年7月場所千秋楽までの集計では、翠富士が82回で1位です。2位が35回なので、倍以上の差がついています。
体格で勝負するのではなく、相手の勢いを利用する取り口を得意とする力士です。
Q4. 「肩透かしを食う」は本当に相撲が語源ですか
A. そのとおりです。『相撲大事典』は、この慣用句が相撲の決まり手に由来すると説明しています。
肩透かしを食うと突然引き倒されたようになることから、期待を外された状況にも使われています。
まとめ
肩透かしは、差し手で相手の腕を引き込みながら、もう片方の手で肩をはたいて倒す捻り手です。相手が前に出てくる力を利用するので、その勢いをうまく外されると大きく崩れやすくなります。
叩き込みとよく似て見えますが、差し手側で引き込む動作があるかどうかで区別できます。この1点を知っているだけで、土俵の見え方が変わるはずです。
そして、決まり手のランキングでは15位で頻度の高い技ではありませんが、それを勝ち方として確立している力士がいます。相手の勢いを読み、外すタイミングを計る。体格や力だけではない相撲が、そこにあります。
僕が現役のころに教わったのは、まず押すことでした。その意味は当時よく分かっていませんでしたが、技を武器にしている力士ですら同じことを言われていると知って、腑に落ちるものがありました。
次に相撲中継で肩透かしが決まったら、倒れた瞬間ではなく、その一つ前を見てみてください。誰が、どちらへ出ようとしていたのか。肩透かしは、その一瞬で決まっています。
うむ。相手の力を利用するというのは、言葉にすれば簡単じゃ。
だが、出てくるのを待つには度胸がいる。
引く技を怖いと思わなくなるまでには、押して押して押し続けた年月があるのだ。
土俵で華やかに見える一手ほど、その裏に地味な稽古が積まれておる。そこを見てほしい。
家で相撲中継を観る日は「menu」が便利です
「今日は外に出ずに、家でゆっくり相撲中継を観たい」「食事や飲み物を用意したいけど、買いに行くのは面倒」
「せっかくなら初回はお得に試してみたい」——
そんな日に使いやすいのが、デリバリーアプリ「menu」です。
■料理だけでなく、コンビニや日用品も注文しやすい
■家で相撲中継を観ながら、食事や買い物をまとめて済ませやすい
■初回クーポンでお得に試しやすい
■継続利用なら配達料対策も考えやすい
まずは初回クーポンを活用して、使い勝手を確かめてみるのがおすすめです。
登録無料・超お得!//

















