幕下付け出しの一覧と仕組み!10枚目格が消えた今の制度を元力士が解説
現役のころ、幕下付け出しの新弟子が入ってくると、若い衆のあいだで話題になりました。最高位が序二段だった僕も、どんな相撲を取る人なのか気になっていました。
ところが、その力士が最初の場所を全休すると、確かめようがないまま、いつの間にか名前を聞かなくなるんですよね。
付け出しは入口が違うだけで、その先の土俵で周りの力士が見ていたのは、肩書きではなく結果でした。
こんにちは!元力士のしんざぶろうです。
幕下付け出し(まくしたつけだし)とは、アマチュア相撲で決められた成績を収めた人が、前相撲を取らずに幕下の地位で初土俵を踏む制度です。
番付発表の記事で「幕下最下位格付出」という文字を見て、何のことか気になったことはありませんか。
この記事では、幕下付け出しの条件と2023年に変わった点、改定後に付け出しで入った力士の一覧、そして序二段から見た幕下付け出しの新弟子の姿を解説します。
新弟子なのに、いきなり幕下の土俵に上がるなんて驚きです。
10枚目格がなくなった話も、どう変わったのか気になります!
幕下付け出しの意味と仕組み
幕下付け出しは、序ノ口ではなく幕下の地位で初土俵を踏む、新弟子の入り方の一つです。協会の番付や発表では「付出(つけだし)」と書き、2023年9月の改定後は「幕下最下位格付出」と表記されます。
そんな付け出しの力士も、ほかの新弟子と同じ新弟子検査を受けます。その様子は、2023年5月場所前の新弟子検査の映像で見られます。
映っているのは、2023年4月18日に行われた新弟子検査です。この日の受検者5人の中に、翌月の5月場所で幕下10枚目格付出として初土俵を踏む大の里関(2026年11月場所時点で横綱)がいました。
見るときは、付け出しで入る力士も、ほかの受検者と同じ検査を受けているところに注目してみてください。
映像を見ただけだと、どの人が付け出しなのか分かりません。
見た目では、誰が幕下から始めるのか当てられそうにないです!
前相撲を取らずに幕下の取組に出る
まず、ふつうの新弟子は、新弟子検査に合格した場所で前相撲を取り、新序出世披露を受けて、翌場所の番付に序ノ口として四股名が載ります。前相撲の力士は番付に名前がないので、「番付外」と呼ばれます。
一方、付け出しの力士は、この順路を通りません。前相撲を取らず、最初の場所から幕下か三段目の力士として取組に出て、その場所の成績で翌場所の番付に載ります。
初土俵の場所の番付表に名前がない点は、前相撲の力士と同じです。それでも、付け出しは「番付外」とは呼ばれません。
参考:『相撲大事典』第4版「番付外」p.274-275/『全部わかる大相撲ガイド』p.20(成美堂出版、2019年)
実際の場所で見ると、違いははっきりしています。2025年1月場所では、三段目最下位格付出の碇潟(いかりがた)が初日に白星でデビューし、同じ場所で合格したほかの新弟子5人は、3日目から前相撲を取りました。
参考:デイリースポーツ「碇潟が三段目最下位格付け出しで白星デビュー」(2025年1月12日)
「幕下最下位格」の格が意味するもの
幕下の定員は、東西60枚ずつの120人です。幕下最下位格付出の力士はこの定員の外に置かれ、位置としては幕下60枚目にあたります。
四股名が番付表に載るのは、その場所の成績が反映される翌場所からです。では、翌場所はどのあたりに載るのでしょうか。
2023年9月の改定後に幕下最下位格で入った15人のうち、最初の場所で7番すべて取り終えた14人の実例は次のとおりです。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 最初の場所の成績 | 人数 | 翌場所の番付 |
|---|---|---|
| 6勝1敗 | 7人 | 幕下26〜29枚目 |
| 5勝2敗 | 4人 | 幕下37〜41枚目 |
| 4勝3敗 | 3人 | 幕下50〜51枚目 |
参考:日本相撲協会「力士プロフィール」各力士の星取表(2026年11月場所時点)
番付表のどこを探しても名前がないのに、幕下の取組には出てくるんだなぁ。
最初の7番で6勝すれば、次の場所はもう幕下の真ん中あたりか。新弟子としては、ずいぶん高いところから始まるよ。
一方で、ふつうの新弟子と同じところもあります。新弟子は6か月間、相撲教習所で実技講座と教養講座を受けますが、付け出しの力士も例外ではありません。
2026年5月場所に幕下最下位格付出で初土俵を踏んだ大森は、その場所の直後に入所式に出て、半年間、実技や相撲史などを学ぶと伝えられています。
参考:日本相撲協会「大相撲クイズ No.796」/琉球新報(共同通信、2026年5月28日)
ふつうの新弟子が、前相撲から序ノ口に載るまでにたどる順路は、別の記事に書きました。
幕下付け出しの資格になる大会と成績
付け出しの資格は、2023年9月28日の定例理事会で改められ、同じ日から適用されています。対象になる大会と、個人戦の成績は次のとおりです。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 大会 | 幕下最下位格 | 三段目最下位格 |
|---|---|---|
| 全日本選手権 | 8強以上 | 16強以上 |
| 全国学生選手権 | 8強以上 | 16強以上 |
| 国民スポーツ大会(旧・国体)成年の部 | 8強以上 | 16強以上 |
| 全国高校選手権(高校総体) | 対象外 | 4強以上 |
| 国民スポーツ大会(旧・国体)少年の部 | 対象外 | 4強以上 |
参考:日刊スポーツ「幕下10枚目格と15枚目格の付け出し廃止を発表」(2023年9月28日)
なお、改定の前まで対象だった全日本実業団選手権は、この改定で対象から外れました。一方で、高校生だけの大会で成績上位の選手に付け出しの資格が与えられるのは、この改定が初めてです。
また、資格には期限があり、年齢にも上限があります。
■付け出しの資格の期限と年齢
- 期限:成績が確定した日から1年以内が有効
- 年齢:新弟子検査は一般が23歳未満。協会が指定する社会人や大学のアマチュア大会で一定の成績を残した人などは25歳未満
幕下最下位格と三段目最下位格の違い
この2つは、資格になる成績と、初土俵を踏む段が違います。ただし、前相撲を取らずに最初の場所から取組に出て、その場所の成績で翌場所の番付に載る点はどちらも同じです。
幕下最下位格は幕下60枚目にあたる位置で、三段目最下位格は、その場所の三段目の末尾にあたる位置です。三段目は2025年1月場所の番付から東西80枚になっていて、2026年11月場所の番付でいえば80枚目にあたります。改定後の呼び方は、何枚目格ではなく「最下位格」です。
参考:日本相撲協会公式サイト「過去の成績・番付」(2024年11月〜2026年11月場所の三段目)
前相撲で土俵に慣れる場所はない。初土俵から、いきなり7番だ。
恵まれた入口に見えて、楽な入口ではないな。
付け出しに限らない新弟子検査の条件は、身長・体重・年齢まで含めて、別の記事にまとめています。
2023年の改定で幕下10枚目格と15枚目格がなくなった
改定前の付け出しは、幕下10枚目格・幕下15枚目格・三段目最下位格の3種類でした。幕下の2つは2001年1月場所から、全日本選手権や全国学生選手権など主要大会の優勝者に与えられていたものです。
たとえば、全国学生選手権の優勝(学生横綱)は幕下15枚目格でした。2023年1月場所に「落合」の四股名で幕下15枚目格付出として初土俵を踏んだ伯乃富士関(はくのふじ)の資格は、全日本実業団選手権の優勝です。
伯乃富士関は、2026年1月場所に改名するまで伯桜鵬(はくおうほう)の四股名で土俵に上がっていました。
2023年9月の改定の前後を並べると、次のようになります。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 改定前 | 改定後 | |
|---|---|---|
| 付け出しの種類 | 幕下10枚目格・幕下15枚目格・三段目90枚目格(最下位格) | 幕下最下位格・三段目最下位格 |
| 幕下付け出しの資格 | 全日本選手権を含む2つの優勝で幕下10枚目格、全日本選手権・全国学生選手権・全日本実業団選手権・国体成年の部のいずれかの優勝で幕下15枚目格 | 全日本選手権・全国学生選手権・国民スポーツ大会成年の部で8強以上 |
| 全日本実業団選手権 | 対象(優勝で15枚目格) | 対象外 |
| 高校生の大会 | 対象外 | 高校総体・国民スポーツ大会少年の部の4強以上に三段目最下位格 |
参考:協会公式クイズ No.594/『相撲大事典』「幕下附出し」p.303-304/日本経済新聞(2023年11月)
廃止の理由は示されていない
2023年9月28日の改定の発表では、10枚目格と15枚目格を廃止した具体的な理由は示されていません。同じ日の理事会では新弟子検査の体格基準を事実上撤廃することも決まり、そちらは力士数の減少に歯止めをかける狙いだと説明されました。
付け出しの改定そのものは、スタートの位置が下がった代わりに、資格が優勝者から8強以上へ広がりました。アマチュアの側からは、歓迎の声が上がっています。
三段目付け出しは2016年3月場所から
三段目付け出しが最初に適用されたのは、2016年3月場所です。近畿大の石橋広暉と東京農業大の小柳亮太(のちの豊山)の2人が、三段目最下位格付出でデビューしました。
新聞では「三段目100枚目格」とも書かれ、2022年5月場所からは「三段目90枚目格」、2023年9月28日の改定で「三段目最下位格」という呼び方になっています。
参考:日本経済新聞(2016年3月13日)/デイリースポーツ(2022年4月6日)
伯桜鵬の最速記録は事実上止まった
幕下15枚目格で初土俵を踏んだ伯桜鵬は、2023年1月場所で幕下優勝し、所要1場所で新十両に上がりました。昭和以降で初めてのことです。続く2023年7月場所には、所要3場所で新入幕を果たし、遠藤と並ぶ昭和以降の最速タイになりました。
参考:デイリースポーツ「伯桜鵬が最速タイ所要3場所で新入幕」(2023年6月26日)
しかし、10枚目格と15枚目格がなくなったことで、この記録を更新するのは事実上できなくなりました。幕下最下位格で入った力士は、最初の場所を6勝1敗で終えても、翌場所の番付は幕下26〜29枚目でした。
同じ2023年には、大の里が5月場所に幕下10枚目格で初土俵を踏んでいます。今の制度が続くかぎり、10枚目格で初土俵を踏む力士は、もう出てきません。
十両まで何年もかかる人もいるのに、入門して2か月で上がるってことだもんなぁ。
同じ土俵で7番取るのは変わらないのに、始まる位置でこんなに違うんだよなぁ。
付け出しで初土俵を踏んだ力士の一覧
2023年9月28日の改定のあとに付け出しで初土俵を踏んだ力士は、2026年11月場所までで20人です。改定前の代表例とあわせて並べます。
2023年9月の改定後に付け出しで初土俵を踏んだ力士
2026年11月場所の番付まで反映しています。番付発表のたびに行を足していきます。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 初土俵 | 四股名(入門時→現在) | 格 | 部屋 | 出身校 | 資格になった大会・成績 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年3月場所 | 松井→嵐富士(あらしふじ) | 幕下最下位格 | 宮城野→伊勢ヶ濱 | 鳥取城北高 | 2023年 国体 成年 8強 |
| 2024年3月場所 | 時天嵐(ときてんらん) | 三段目最下位格 | 時津風 | 東京農業大 | 2023年 全国学生選手権 16強 |
| 2024年5月場所 | 草野→義ノ富士(よしのふじ) | 幕下最下位格 | 伊勢ヶ濱 | 日本大 | 2023年 全国学生選手権 優勝 |
| 2024年5月場所 | 大花竜(おおかりゅう) | 三段目最下位格 | 立浪 | 近畿大 | 2023年 国体 成年 16強 |
| 2024年7月場所 | 石崎→朝翠龍(あさすいりゅう) | 幕下最下位格 | 高砂 | 日本体育大 | 2023年 全日本選手権 3位 |
| 2024年7月場所 | 一意(かずま) | 幕下最下位格 | 木瀬 | 日本大 | 2023年 国体 成年 優勝 |
| 2024年9月場所 | 三田(みた) | 幕下最下位格 | 二子山 | 近畿大 | 2023年 国体 成年 8強 |
| 2025年1月場所 | 碇潟(いかりがた) | 三段目最下位格 | 伊勢ノ海 | 埼玉栄高 | 2024年 国民スポーツ大会 少年 4位 |
| 2025年3月場所 | 五島→藤凌駕(ふじりょうが) | 幕下最下位格 | 藤島 | 拓殖大 | 2024年 全日本選手権 3位 |
| 2025年3月場所 | 福崎→藤天晴(ふじてんせい) | 幕下最下位格 | 藤島 | 樟南高 | 2024年 全日本選手権 8強 |
| 2025年5月場所 | 行徳(ぎょうとく) | 幕下最下位格 | 玉ノ井 | 拓殖大 | 2024年 国民スポーツ大会 成年 3位 |
| 2025年5月場所 | 浦山→鶴英山(かくえいざん) | 幕下最下位格 | 音羽山 | 近畿大 | 2024年 全国学生選手権 8強 |
| 2025年5月場所 | 花岡→花響(はなひびき) | 幕下最下位格 | 境川 | 日本大 | 2024年 国民スポーツ大会 成年 準優勝 |
| 2025年7月場所 | 竜翔(りゅうしょう) | 幕下最下位格 | 追手風 | 日本大 | 2024年 全国学生選手権 8強 |
| 2026年1月場所 | 和歌ノ富士(わかのふじ) | 幕下最下位格 | 春日野 | 日本体育大 | 2024年 全国学生選手権 優勝 |
| 2026年3月場所 | 不動豊(ふどうほう) | 幕下最下位格 | 時津風 | 東京農業大 | 2025年 全国学生選手権 準優勝 |
| 2026年3月場所 | 甲斐田(かいだ) | 三段目最下位格 | 春日野 | 足立新田高 | 2025年 国民スポーツ大会 少年 準優勝 |
| 2026年5月場所 | 大森(おおもり) | 幕下最下位格 | 追手風 | 金沢学院大 | 2025年 全日本選手権 準優勝 |
| 2026年5月場所 | 火雷(ほのいかづち) | 幕下最下位格 | 雷 | 日本体育大 | 2025年 国民スポーツ大会 成年 準優勝 |
| 2026年7月場所 | 澤田(さわだ) | 三段目最下位格 | 境川 | 目黒日大高 | 2025年 高校総体 優勝 |
参考:日本相撲協会公式サイト「過去の成績・番付」(令和5年11月〜令和8年11月場所の幕下・三段目番付表)
参考:デイリースポーツ(2025年3月)/時事ドットコム(2025年4月)/時事ドットコム(2026年1月)
2026年11月場所の番付で、この20人のうち関取になっているのは5人です。幕内の義ノ富士関・藤凌駕関・朝翠龍関・嵐富士関と、十両の一意関で、いずれも幕下最下位格から入った力士です。
ほかに、三田・藤天晴・大花竜の3人は十両に上がったことがあり、2026年11月場所は幕下で取っています。このうち大花竜は三段目最下位格から入った力士で、2026年5月場所に新十両に上がりました。
表の中で嵐富士の部屋が2つあるのは、2024年4月に宮城野部屋の力士がそろって伊勢ヶ濱部屋へ移ったときに、嵐富士も部屋が変わったからです。なお、2026年9月場所と11月場所には、付け出しで初土俵を踏んだ力士はいません。
また、改定の直後にあたる2023年11月場所には、旧制度で得た資格のまま、阿武剋関(おうのかつ。2026年11月場所時点で十両)が幕下15枚目格付出で初土俵を踏んでいます。15枚目格で初土俵を踏んだのは、この阿武剋が最後です。
歴代の付け出し力士の代表例
改定前の付け出しから、横綱や大関まで上がった力士を並べました。
※スマートフォンでは、表を横にスクロールできます
| 四股名 | 初土俵 | 付け出しの格 | 出身校 | 最高位 |
|---|---|---|---|---|
| 輪島(わじま) | 1970年1月場所 | 幕下60枚目格 | 日本大 | 横綱 |
| 朝潮(あさしお) | 1978年3月場所 | 幕下60枚目格 | 近畿大 | 大関 |
| 武双山(むそうやま) | 1993年1月場所 | 幕下最下位 | 専修大(中退) | 大関 |
| 出島(でじま) | 1996年3月場所 | 幕下最下位 | 中央大 | 大関 |
| 雅山(みやびやま) | 1998年7月場所 | 幕下最下位 | 明治大(中退) | 大関 |
| 琴光喜(ことみつき) | 1999年3月場所 | 幕下最下位 | 日本大 | 大関 |
| 御嶽海(みたけうみ) | 2015年3月場所 | 幕下10枚目格 | 東洋大 | 大関 |
| 朝乃山(あさのやま) | 2016年3月場所 | 三段目100枚目格 | 近畿大 | 大関 |
| 大の里(おおのさと) | 2023年5月場所 | 幕下10枚目格 | 日本体育大 | 横綱(2026年11月場所時点で現役) |
参考:時事ドットコム「土俵に別れを告げた日」/デイリースポーツ(2015年3月)/日本経済新聞(2020年3月)
幕下付け出しは1966年から幕下の最下位に置かれることになり、2001年1月場所に10枚目格と15枚目格ができるまで、この形が続きました。輪島から琴光喜までの6人は、この時期に入門した力士です。輪島と朝潮の「幕下60枚目格」も、今の幕下最下位格と同じく、幕下のいちばん下からのスタートでした。
参考:『相撲大事典』第4版「幕下附出し」p.303-304/時事ドットコム「元大関朝潮、先代高砂親方 写真特集」
そして、この表の中で記録を塗り替えたのが大の里です。初土俵から7場所目の初優勝は史上最速で、所要9場所の大関昇進は雅山らの12場所を、所要13場所の横綱昇進は輪島の21場所を、それぞれ更新しました。
参考:日本経済新聞(2025年5月28日)/デイリースポーツ(2024年5月27日)
速さは目に付く。
だが、速さを作ったのは、一番ごとの相撲だ。数字はあとから付いてくるものだな。
幕下10枚目格で初土俵を踏んでから横綱に上がるまでの大の里の成績は、場所ごとに別の記事で追っています。
元力士が見ていた付け出し
ここからは制度の話ではなく、現役のころの僕が見ていた話です。
付け出しの新弟子が入ってくると、同じ部屋の力士だけでなく、ほかの部屋の力士のあいだでも話題になります。どれほどの実力があるのか、最高位が序二段だった僕にも、気にならないわけがありませんでした。
しかし、その力士が最初の場所を全休してしまうと、実力を確かめる機会がありません。期待や関心が集まっていても、取組を見られないまま時間が過ぎ、いつの間にか話題に上らなくなるんですよね。
というのも、次々と新しい付け出しの力士が入ってくるため、どうしても注目がそちらへ移ってしまうからです。前の名前は、そこで埋もれていきます。
そもそも、付け出しだからといって、必ず関取になれるわけではありません。実績を持って入門しても、関取に昇進できずに土俵を去る力士もいます。
付け出しという肩書きより重いのは、入門してからどんな相撲を取り、どれだけ結果を残すかでした。最初は注目されなくなっても、土俵で結果を出せば、また力士たちのあいだで名前が挙がります。
土俵で結果を出して、また名前が挙がるようになった実例は、僕が土俵を離れたあとにも出ています。一意は2024年7月場所に幕下最下位格付出で初土俵を踏みましたが、その場所の途中で大けがをして休場し、続く4場所を全休して序ノ口から出直しました。
そこから序ノ口・三段目・幕下で優勝を重ねて新十両に上がり、2026年7月場所には新入幕を果たし、2026年11月場所の時点では十両で土俵に上がっています。
参考:日本相撲協会「力士プロフィール 一意」/日本経済新聞「一意 大けが乗り越えて新十両」(2025年12月)
番付で兄弟子を抜いていく新弟子が入ってくると
付け出しではありませんが、僕の現役時代にも、学生相撲を経験してから入門し、あっという間に番付で僕を抜いていった人が2人いました。
番付がものを言う世界なので一目置く気持ちはあった一方で、兄弟子たちの接し方も明らかに僕たちと違い、頼み事などの雑用はこちらにばかり振ってきました。
正直、面白くない気持ちも、どこかにあった気がします。
そのときの気持ちは、同じ学生相撲の出身で、幕下最下位格付出から入った三田の記事に詳しく書きました。
全休から始まった付け出しもいる
僕が現役だった2001年9月場所に、幕下15枚目格付出で迎えた最初の場所を全休した力士がいます。垣添徹(かきぞえ とおる)、のちの雷親方です。
参考:日刊スポーツ「垣添断髪式にWBA王者内山ら250人」(2013年6月1日)
ただし、僕は垣添と接点があったわけではなく、同じ時期に現役だっただけです。それでも、名前が挙がり、取組がなく、話題から消えていくという流れは、上に書いたとおりでした。
垣添はそこから小結まで上がり、2023年に入間川部屋を継いで雷部屋を復活させています。その経歴は、雷親方の記事に書きました。
付け出しでも関取に届かずに土俵を去る力士もいる
下田圭将(しもだ けいしょう)は、2006年5月場所に幕下15枚目格付出で初土俵を踏み、7戦全勝で幕下優勝しました。それでも翌場所の番付は西幕下筆頭にとどまり、十両に上がれないまま、若圭翔(わかけいしょう)の四股名で2016年3月に引退しています。
この全勝が十両昇進に結びつかなかった事情は、幕下の記事に書いてあります。
幕下付け出しに関するよくある質問
幕下付け出しについて、番付発表やニュースで疑問に思いやすいことに順にお答えします。
Q1. 幕下付け出しの読み方は?
A. 「まくしたつけだし」と読みます。日本相撲協会の発表や番付では「付出し」「付出」と書き、『相撲大事典』では「附出し」の表記です。どれも読み方は同じです。
Q2. 幕下付け出しは何枚目から始まる?
A. 2023年9月28日の改定後は、幕下最下位格の一つだけです。幕下60枚目にあたる位置から始まり、その場所の成績で翌場所の番付に載ります。三段目付け出しは、三段目最下位格です。
Q3. 付け出しの力士が最初の場所で負け越したら?
A. 付け出しの力士の翌場所の番付も、ほかの力士と同じように、その場所の成績で決まります。負け越せば、幕下最下位格なら三段目、三段目最下位格なら序二段に載ることもありえます。
ただし、2023年9月の改定後に付け出しで入った20人は、全員が最初の場所を4勝以上で終えていて、負け越した力士はまだいません(2026年11月場所時点)。幕下最下位格で4勝3敗だった力士の翌場所の番付は、幕下50〜51枚目でした。
参考:『相撲大事典』第4版「番付編成要領」p.277-278
Q4. 幕下付け出しに給料はある?
A. 幕下以下の力士に月給はなく、本場所ごとの手当と奨励金が支給されます。幕下付け出しで入った力士も、関取に上がるまでは同じ仕組みの中にいます。番付ごとの手当の額は、幕下の給料の記事に書きました。
Q5. 付け出しの力士は前相撲を取る?
A. 取りません。最初の場所から幕下か三段目の力士として取組に出ます。2025年1月場所では、三段目最下位格付出の碇潟が初日に白星でデビューし、同じ場所の新弟子5人は3日目から前相撲を取りました。
Q6. 幕下10枚目格や15枚目格の付け出しは今もある?
A. ありません。2023年9月28日の改定で廃止されました。15枚目格で初土俵を踏んだのは、改定直後の2023年11月場所の阿武剋が最後です。
Q7. 三段目付け出しとの違いは?
A. 初土俵を踏む段と、資格になる成績が違います。幕下付け出しは幕下最下位格、三段目付け出しは三段目最下位格から始まり、前相撲を取らずに取組に出る点は同じです。三段目付け出しは2016年3月場所に最初の適用例が出ました。
まとめ
番付発表で「幕下最下位格付出」の文字を見かけたら、その人はまだ番付表に名前がなく、最初の場所から幕下の土俵に上がる新弟子です。周りの力士が気にしていたのは肩書きではなく、最初の場所でどんな相撲を取るかでした。
僕が現役のころに見た付け出しには、全休のまま話題から消えていった人がいます。僕が土俵を離れたあとには、けがで序ノ口から出直して新入幕まで戻った人も出ています。次の場所の星取表で、付け出しの力士の7番を追ってみてください。
入口の高さは、土俵の上では消える。
残るのは、その日の一番をどう取ったかだけだな。
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